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1.誓い
あの日、パパから雄介さんとの結婚話を持ち掛けられ、家を飛び出した。
街の雑踏の中で出逢った葵。
泣く事しか出来なかった私に、優しく声を掛けてくれて、ハンカチを貸してくれた葵。
あの優しさに心惹かれ、再会し、私をまるごと包み込んでくれた葵。
葵との出会いは、私にとって奇跡そのものだった。
たくさん迷惑を掛けて、悲しませて、それでも私たちはお互いを求めあっていた。
あれから2年。
最初で最後の夜に授かった、梅香が私の腕の中にいる。
無垢でキラキラした瞳の梅香。
大切な、大切な宝物。
その梅香と今、葵と初めて唇を重ねた公園で、葵と三人でいられることも、また奇跡に思えた。
胸の間に梅香を挟んで、お互いの頬、柔らかい髪、首筋に手を添えた。
葵の胸に頬を寄せて、梅香を抱いていない手で葵の背中に手を回す。
ずっと夢見ていた葵の温もり。
溢れ来る感情に、素直に従った。
涙が零れ落ちることも、自然に任せた。
葵は片方の手を私の腰に置いて、もう片方の手で梅香の頬を優しく撫でてくれた。
梅香は優しく、優しく頬を撫で、頭を撫でている葵に、やがてにっこりと笑顔を向け始めた。
そんな梅香に、葵は優しく声を掛ける。
「梅香、初めまして。パパだよ」
「ぱあぱ?」
「そう、パパ」
梅香は小さなかわいい両手で、葵をなでなでし始めた。
葵は目を細めて梅香に頬を預ける。
そんな様子に、また気持ちが昂って視界がぼやけてくる。
指先でそれを拭いながら、葵を見上げる。
そんな私の瞳を見つめ返して、柔らかく温かいまなざしを送ってくれる。
・・・どちらともなく、
お互いの温もりを、
溢れる感情を、
その唇に伝え合った。
何度も、何度も、確かめるように・・・。
もう、何があっても離れない。
その想いを刻み込むように・・・。
今日という日に感謝して、絶対にこの二人の手を、もう二度と離さないと、心に固く誓った・・・。
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