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2.現実
さくらと再会した日の夕食後、俺は両親に背筋を伸ばして向き合った。
「話があります」
改まった俺の態度に、両親は驚いたようだった。
しかし、これから話す内容の方が、もっと驚かせてしまうだろうから、俺は出来るだけ落ち着いて、きちんとした言葉で、内容を伝えられるように気を配りながら話を続けた。
「以前俺が怪我をしたときに会ったさくらを覚えている?」
ふたりとも緊張した面持ちで小さく頷いている。
「さくらが離婚したのは、知ってるよな?」
もう一度、小さく頷く。
「さくらは子供を連れて、村越の家に戻って来たんだ。・・・俺たちは今でも、お互いに大切な存在で、これからも同じ道を歩んでいきたいと考えているんだ」
「葵・・・」
それだけ言って神妙な面持ちで俺を見つめている。
でも、ここからがもっと大変な内容を伝えなければならない。
「・・・落ち着いて聞いて欲しいんだけど・・・さくらの子は、俺との間に生まれた子なんだ」
「何だって?!」
ふたりとも、目を見開いて驚きの表情を浮かべている。
母さんは、震える声で確かめるように言葉を繋ぐ。
「それは間違いじゃないの?だって・・・中村家に長女誕生って、話題になってたじゃない?」
俺は真剣にその言葉を受け止めた。
突然のことに、信じられないのは仕方ない。
でも、これは事実だ。
「そうなんだけど、さくらは中村雄介とは一切夫婦としての生活はなかったそうだ。さくらの結婚前、俺たちは最後の夜に、一度だけそういうことがあったんだ」
こんなことを両親に話すのは気まずいけど、しっかりと伝えたい。
「なんてこと・・・たった一度で・・・?」
母さんは手を口に当て、動揺しているようだった。
父さんは何も語らない。
ただ、険しい表情で押し黙っている。
ふたりとも、どうしたらいいのか混乱している様子だ。
それはそうだよな。
子供を連れているさくらと再びめぐり逢えて、また付き合うことになったのも驚きだろうに、その子が息子との子だなんて、信じられないだろう。
でも、さくらとのあの夜も、さくらとの未来のために大学に入学したのも、俺にとっては既に自分のこととして大切にしていきたい現実なんだ。
「急な話で混乱させて申し訳ないけど、ふたりには理解して欲しいです。許してください、お願いします」
そう言って深く頭を下げた。
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