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重くて苦しいと感じられるほどの張りつめた空気。
緊張で心臓が痛いほど脈打っている。
その空気を裂いたのは母さんだった。
「あなた・・・私は、許してあげたいわ」
「おい・・・!」
母さんは涙目で俺を見遣り、それからもういちど父さんに向き直る。
「だってあんなにお互いに大切に思い合っていたのに引き離されて、それでもあれから2年と言う歳月を経てまた傍にいられるようになったのよ?ふたりの想いは本物だと思うから」
俺は母さんの言葉で思い出した。
俺が中村屋の者に怪我を負わされ、病院に駆けつけてくれた時のことだ。
『親としては心配でならないわ。あなたが不幸になりやしないかって。でも、あなたが人間として、優しく育ってくれたって事を、あなたを好きだと言ってくれる人から聞くことが出来て、嬉しくもあるの・・・変よね?』
父さんがさくらを送っていくと言って病室を出た後、母さんとふたりで話した。
さくらの状況を知りながらも、さくらに惹かれ、さくらと付き合うことにした・・・そんな俺の話を聞いた後の母さんの言葉だった。
『母さん・・・』
母さんは暫く黙り込んだ。
そして小さなため息をつきながら、
『なんて巡り合わせ。こんなことがなければ幸せになれるふたりなのに、こんなことがなければ出逢わなかった。ほんと、何てことでしょう・・・』
あの時思っていたことを口にしてくれた母さんは、そのあと子供の頃から暫くぶりに、俺にかけ布団を掛けてくれたっけ。
あの時の気持ちのまま、母さんは俺の気持ちを汲んでくれたのかな・・・?
「だが・・・」
俺は父さんの言葉にはっとした。
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