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第10章 新大久保
俺は、秋田が住んでいた街に来た。
ここは、新大久保。
やけに外国人が目に付く街だ。
少し脇道に入ると、韓国料理店がひしめきあっていて、ここは韓国人街なのだろう。
秋田が住んでいたのは、駅の改札口を出て、
目の前の横断歩道を渡り、
そのまま商店街を北側に少し行ったところを
脇に入ったマンションだった。
「このあたりのマンションにも外人が住んでるのかな。」
別に外人が珍しいとか、怖いとかいうんじゃないけど、いつ彼らとこんな裏通りで出くわすとも限らないし、そんな時の心の準備をしておきたい気分がした。それで、そんな独り言をつぶやいていた。
警察から聞いていた住所はあっさり見つかった。
「ここか。」
まるで、探偵ドラマのニヒルな主人公のように、
自分ではそう決めた気分でまたもつぶやいていた。
「やつは「みどり」に殺されたのか?
その「みどり」とは何者なのか?」
みどり・・・勿論最初に浮かぶのは、人の名前、次にはものの名前。例えば、お店の名前、会社の名前・・・そこの店員なり、社員。
さて、住所から、このマンションの住人だとわかったが、ここの何号室だかまでは聞いていなかったので、郵便ポストで早速「秋田」の名前を探した。
秋田・・秋田・・・秋田・・。
残念ながら秋田の名前は見当たらなかった。
そうだよな。もうとっくに解約されて、
ポストからも名前が消されていてもおかしくない。警察で何号室かまで聞き出しておけば良かった。それでも執拗に住民のポストを隅から隅まで再確認すると、楢本はポストに消えかかった「秋田」という文字を、めざとく見つけることができた。
「なんだ。203号室だったんだ。」
秋田の住んでいた部屋を一目見たいと思い、
エントランスから中に入ろうとすると、
目の前のガラス戸が楢本の行く手を遮るように微動だにしなかった。
「オートロックか・・。ここらは物騒だからな。」
困った。これでは中に入って、203号室を確認することは出来ない。
楢本の目の前で断固として、彼の目的を阻んでいるそれは、一向にそのにらみを緩めようとはしなかった。
「困ったなあ。」
楢本がどうしたらいいものかと、そこでしばらく考えている時に、ちょうど外出先から戻った住人が暗唱番号をプレートに打ち込んで、
その扉を開けて中に入って行った。
楢本はそのチャンスを見逃さなかった。
楢本はその女性に続いて、そこを通過し、
その先のエレベーターに乗り込んだ。
楢本が二階のボタンを押そうとすると、彼女がそれを先に押した。
エレベーターが止まり、彼女が先に降りた。
続いて楢本も二階に降りた。
なんか女の後をつけているようで、居心地が悪い。女は202号室の前で止まって、そのドアを鍵で開けて中に消えた。
少し離れて歩いていた楢本は、それから202号室の手前の203号室の前に立ち止まって、
その部屋の雰囲気を観察した。
「この部屋か。」
203号室は、特に変わった様子もなかった。
外からは生活感がない感じもしたが、
さすがに中までは見られないし、その外観を見る限りは普通だった。
とりあえず他の部屋との違いを確認するために、
隣の202号室の方を覗いた。さっき女が入った部屋だ。
女・・・。
表札があった。
オートロックのマンションだということで、
表札もしっかりと出ていた。
「中野緑」
お・・・。
「中野みどり!」
みどりだ・・。
楢本の心が激しく揺れた!
みどりがこんなところにあった。
まさか隣の住人がやつの死に関係してるのだろうか・・。これは大きな収穫だった。
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