みどり(影山飛鳥シリーズ01)

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第12章 謎の男 影山は、中野と鈴木を連れて、その新大久保のマンションに向かった。 目的は、その男のストーカーの確認だった。 そして、そのマンションのあちこちに備え付けられている防犯カメラの録画から、その男の顔や姿形、そしてさまざまな情報を得ることが目的だった。 防犯カメラは、オートロックの扉の上、エレベーターの中、そして各階の廊下に備え付けられていた。 不動産屋は最初はしぶっていたので、 警察にストーカーの被害届を出しに行って、 警察が各部屋を臨戸し、その噂が世間に広まる方が痛手ではないかと、少し脅してみた。 そして、録画を見せたことを、誰にも言わないという条件で、管理会社と話をつけてくれて、 昨日のその時間帯の録画を見せてもらうことになった 三人はマンションの管理人室に隣接しているモニタールームに入った。 「三か所の録画をお願いします。」 管理会社は中野の帰宅した頃の防犯カメラに映っていたビデオの中から、オートロックの所と、エレベーターの中と、二階の廊下に備え付けてある三か所のものをを取り出して、それぞれ別のモニターから、同時に見せてくれた。 まず、オートロックのドアと、その後方にマンションの入り口が映っている映像に、中野らしき女性が帰宅する映像が映りだした。 「ちょっと待って下さい。中野さん、この時には既にあの男は、オートロックの前にいたんですよね。」 「はい。」 「すみません。そこから巻き戻して下さい。」 その映像が再生しながら巻き戻されると、 オートロックに張り付くように立っていた男が、 玄関の方にこちらを向きながら、バックしていく姿が映し出された。 「ストップ! そこから再生をお願いします。」 そこから、再びビデオが再生されると、 マンションの入り口から一人の男が、 まっすぐオートロックのドアの前まで歩いて来る映像が再生された。 そして、オートロックの扉が開かないので、 そこでじっと立ち止まっている映像がしばらく続いた。 そして、暗唱番号を入力するボードの辺りに移動したり、再びマンションの入口あたりに戻ったり、郵便ポストの付近をうろついたりしていた。 しばらくすると、そこに中野が現れた。 「これ、中野さんですよね。」 「はい。」 中野がマンションの玄関から、まっすぐオートロックのドアのところまで向かって来る姿が、 モニターに映った。 そしてそのまま暗唱番号を入力するボードの所に行き、オートロックのドアを開けるとすぐにその中に入って行った。 中野がその中に入ると、その男はそれに続くようにその中に消えた。 一同は、エレベーターの中を映しだすモニターに視線を移した。 エレベーターが開くと、そこには中野が立っていた。 中野がサッとそのエレベーターの中に入ると、 その男も続いてそれに乗り込んだ。 エレベーターの中の映像は、 オートロックのところの画像よりも鮮明だったが、その男はエレベーターに乗りこむなり、 すぐに反転して入り口の方を向いてしまったので、顔はよく見えなかった。 「中野さんは、身長はいくつですか?」 「168です。」 「では、この男は175というところだな。」 すると今までだまっていた管理会社の男が口を開いた。 「そうですね。エレベーターのこのパネルの高さが180ですから、この男はそれくらいだと思います。」 よく、コンビニや銀行の出入口に何気なく貼ってある、カラフルなテープと同じように、 防犯上、そういう目印で身長がわかるようにしてあるのだろう。 正面の姿は一瞬だけ見えたが、すぐに反転してしまい、ドアの方向を向いてしまったので、 停止ボタンを押してもやはり顔はよく見えなかった。 二階の停止ボタンはその男ではなく、彼女が押していた。 「中野さん、いい加減な階を押しても良かったのに。」 「でも、いい加減な階を押したとわかったら、 かえって怖い目に遭うような気がして。」 エレベーターが二階に停止すると、そこで二人は降りた。次は二階を映すモニターを覗いた。 「暗いなあ。」 エレベーターの中とはうってかわって画面が暗くなった。これでは男の顔が見えるかどうか、かなり怪しくなって来た。 中野はそのまままっすぐ202号室に向かい、カギを開け、そして中に消えた。 問題はこの後である。 一同は息を飲んでそのモニターに集中した。 男は中野の後からゆっくりと、202号室に近づいて行った。 そして部屋の数歩前で止まった。 そこは203号室の前だった。 「ためらったのかしら?」鈴木が言った。 「どうだろう。お隣に人がいるかを確認したのかもしれない。」 「急に出て来たら困るしね。」 それからその男はゆっくり202号室に近寄り、 そして中を伺う様子を見せた。 「先生、やっぱりこの男が黒幕ですよ。」 「・・・。」 「きっと知り合いの女を使って、住民票を取らせたんですよ。」 「うん・・。」 「でも、その住民票を何に使ったのでしょうか?  その住民票には多摩の住所だけで、 新大久保のマンションの住所は記載されていないし。何のために住民票が必要だったのでしょうか?」 鈴木の言うことはもっともだった。 影山も住民票の使い途に納得が出来なかった。 それに、オートロックのあるマンションに、 防犯カメラが備え付けてあるのは、誰だって予想がつく。それをここまで正直に姿をさらしてビデオに映りまくり、大胆な行動をするストーカーが、別の女に住民票を取りに行かせたり、何もしないでマンションを後にしたことにも、腑に落ちなかった。 確かに、なりすましで住民票を取るのは中野と同性の女でなければ、それは無理だっただろう。でも、住民票を取らなくても、この男はこの新大久保のマンションの住所を知っていたことになる。 そして新大久保の前に住んでいた多摩の住所も知っていたことになる。 そうでなければ住民票の申請をそもそも出来ないからだ。では、住民票を取って何を知りたかったのか。 彼女を襲う際に、同居人がいるかどうかを確認したかったのだろうか。でもこの男は何もしないであのマンションを去っている。 また、あの女が申請した住民票は、彼女ひとりのもので、同居人の情報も、世帯主も、戸籍の表示もないものだった。 と言うことは、彼女の氏名、生年月日、住所しか、そこからは得られないことになる。 そもそも、住民票の申請には本人の住所、氏名、生年月日が必要になる。 彼らは彼女のこれらの情報を知っていて、同居人や世帯主、本籍などにも興味がないということは、いったい何が知りたかったのであろうか? するとそもそも住民票なんていらないということになってしまう。  「先生、何を考えているんですか?」 鈴木の声で影山は我に返った。 モニターを見ると、あの男が再びエレベーターに乗るところだった。そこには先ほどと違って、その男の顔がしっかりと映し出されていた。 「この顔を後で事務所のパソコンに送付願います。」 「ええ!」 管理会社のその男はびっくりした声を出したが、 上司からは探偵の指示や要望に沿うようにと厳命されていたので、これにもしぶしぶ従った。 「中野さん、何もなかったんですよね?」 「はい。」 「ドアを叩くとか、そういうことも?」 「はい。」 今回は被害がなくても、次は危ないということも十分に考えられる。用心に越したことはない。 三人はモニタールームを後にした。
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