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第16章 三つのみどり
「先生!」
影山は鈴木の声で我に返った。
「先生、大丈夫ですか?」
影山が放心状態にあったのを見て楢本も影山に声を掛けた。
「影山先生が驚かれるのも無理ないですよ。
俺もあの女・・いや失礼、中野さんの表札を見てびっくりしましたから。」
「みどりが・・ですか・・。」
影山はまだ何か考え込んでいた。
「先生まだ何か?」
「うん。みどりが・・の先はわからないんですね。」
「残念ですが。それを知りたくて、俺もあちこち動き回ったのですが。」
「楢本さん。中野さんの住民票を取得したこととは関係ないのですね。」
「はい。それはまったく。」
「中野さんのその住民票には、そこに引越しする前の住所が書いてあるんです。」
「それは新大久保の前ですか?」
「いえ。住民票が勝手に取られたのは、新大久保に引越しをする前の、
多摩の住所の方です。」
「多摩の住所・・?」
「それが何か?」
「警察では、殺された秋田も新大久保の前は、
多摩に住んでいたと聞きました。」
「そこにも共通点があるんですね!」
一同はそこで黙り込んでしまった。
その静けさを打ち払うように鈴木が影山に語りかけた。
「先生、さっき気になさっていたのはどんなことですか?」
「あ・・。忘れてました。実は楢本さん、
その中野さんの多摩の前の住所なんですが・・。」
「はい。」
「目黒区の緑が丘というところなんです。」
「はい。」
「いえ・・。みどりが丘です。みどり・・。」
「ああ!」
殺された秋田の最期の言葉であった「みどりが。」と、秋田の隣に住んでいた中野「みどり」と、
中野緑がかつて住んでいた「みどり」が丘。
みどりが三つ重なった。
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