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第37章 休暇
「室長。」
自分の部屋で仮眠を取っていると、部下の声で起こされた。
「なんだ?」
「中野さんが今日、お休みしたいと。」
休み?
「なんだどうした?」
「頭痛がひどいらしいです。」
「夕べ飲みすぎたか?」
「誰か飲ませ過ぎたのかもしれませんね。」
娘は今日は休暇。
それでは朝、植物園に現れないはずだ。
・・その時、ふと思った。俺も今日休暇を取って、娘に会いに行ったらどうだろう。
お見舞い・・・と称して、そこで娘と今日話すはずだったことを話せる。彼女の部屋なら誰かに聞かれることもないだろうし。
そう思うと、今日のスケジュールを確認し、
俺はそそくさ休暇の届け出を出した。
部下たちはうるさい俺がいなくなることで嬉しいはずなのに、それを表には出さないで、心配した振りをしている。
「最近、お疲れのようでしたから。」
まさか、昨日の飲み過ぎですかという者もいなかった。
俺はそれから自分の車が止まっている所まで行って、そしてカーナビで娘の住む場所を検索した。
カーナビの検索。
そう。
俺はマンションの一室を娘の隣の部屋に借りていた。しかし、借りてはいたが、そこには住んではいない。実際に居所は、多摩のままだったが、
娘があのマンションに引っ越ししたのを知って、
それで私もあのマンションを借りた。
そして借りただけで実際には住んでいなかった。
それは頃合いをみて、そこに引越しをして、
偶然を装って親子の名乗りを上げようと思ったりしたのだが、いくらなんでも出来過ぎだと思われるのではないかと思ってやめにした。
ただ、娘の隣の部屋を借りてるという事実だけで、なにか説明のつかない幸福感を味わっていたのは確かだった。その部屋に布団でも持ち込めば、娘の息遣いも聞こえるのではないかという、
そんな幸せな気持ちがしていた。
その時、目の前をあの目黒が通り過ぎて行った。
そして停めてあった自分の車に乗り込んだ。
こんな時間にどこへ?
外回りにしては時間が早すぎる。
そう思って、カーナビの結果を無視して、
彼の行動を注視した。
するとそこに先ほど植物園で見かけた二人のうちの、若い方がその車に駆け寄り、サッと乗りこんだかと思うと、その途端、車が発進した。
俺もそれにつられて車を発進させていた。
どこへ行くのだろう?
そう思ったそばから、彼に案内させるんだな・・とそう悟った。
ガソリンは満タンだった。
どこまでも追いかけてやる! とそう決めていた。
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