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第41章 秋田の解雇
それから1週間くらい経った頃だった。
やよいが私を手招きして、そのまま化粧室に行った。
「聞いた?」
「何を?」
「室長が懲戒免職になっていたっていうこと。」
「え? どうして?」
「なんか研究データをどっかに漏らしてたらしいよ。」
やよいはいつもどこから仕入れて来るのかわからないけど、確かな秘密情報を持っていた。
「えー、嘘。」
いくらなんでもそんなことは信じられなかった。
「でも、確かだよ。人事の小川さんに聞いたんだから。」
「そうなの?」
「うん。」
懲戒免職。
殺された上、クビになった。
「どんな情報を流したの? うちの研究?」
「じゃないみたい。どっか別のセクションのらしい。」
「どうやって室長はそんな情報を?」
「さあ。」
「じゃあ、それで殺されたのかな?」
「誰に?」
「流した先か、うちの誰かか。」
「ええ・・うちの所員に?」
「かもっていうこと。わからないけど。」
やよいが早速小川さんに会って、
そのことを確かめようと言いだしたので、
小川さんを訪ねる格好で人事部にそのまま向かった。
すると、人事部にこの前、私たちを事情聴取した刑事が来ていた。
私と目が合うと、その刑事が軽く会釈をした。
私も軽く会釈をして、自分の職場に戻ろうとすると、「私はもう帰りますからどうぞ。お話があったんでしょ。」と、私を引き止めた。
私は仕方なくその場に立ち止まると、
その刑事は帰り際に私に静かな声で
「おたくの室長、情報の漏えいで解雇されたんだね。」と語りかけて来た。
私は心の中を見透かされた気になって、少し当惑していると、しかも半年前に遡って解雇になっているらしいよ、おかしくないかなと独り言のようにつぶやきながら帰って行った。
半年前に解雇・・なぜ?
私は小川さんに解雇の事実を確かめに来て、
その答えは刑事から知ったけど、
また新たな疑問がわいてしまって、
それを小川さんに問う形になった。
「確かに、元あなたの上司ですが、
そこまでお話する必要はあるのでしょうか?」
小川さんはさっきの刑事の対応で疲れたという表情をしていた。
「だって半年前の解雇なら、その後研究室でお金を出したゴルフのコンペの優勝賞金・・返してもらわないといけないから。」
私はいいかげんな嘘をついた。
「え?」
「研究室でゴルフしたんですよ。そうしたら室長が優勝しちゃって、優勝賞金が十万円だったんですよ。みんな賞金に五千円ずつ出したので。だからもし半年前に解雇されていたら、それって無効だから、返してもらわなくてはいけないって、みんなに言われて。だから私聞きに来たんです。」
小川さんは笑いながら大きくうなずいていた。
「わかるわかる・・。あなたのグループケチが多いものね。」
え・・失礼な。
「室長はある情報をある企業に横流ししたの。それで、クビ。その情報漏えいが半年前だから、半年前にクビになりました。ほら・・ボーナス算定の基準日が半年前にあるでしょ。だからその日以前にクビになってればボーナス支給されないじゃない。」
ああ・・。
「あなたのところだけでなく、うち全部がケチなのよね。退職金が出ないだけでなく、早速ボーナスも返してもらう手続きをしろって。」
そういうことだったんだ・・・と私はその時は納得した。
その日室長は、突然退社をして、秘密を漏らしていた人と青木ケ原の樹海で会って、そして殺された。どうやらこういうことが真実のようだった。
でもどうしてわざわざ青木ケ原になんて。
青木ケ原というと確か同期の誰かがそこから植物を採取して、代謝に関する実験をしてたとかなんとか・・確かそんなことを同期の飲み会で言ってたような。じゃあその情報ってその代謝に関することかしら。明日、早速彼にその実験のことを聞いてみようかな。
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