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第42章 中野への不信
中野が戻ると、小川は人事部長に呼ばれた。
刑事とのやりとりを聞かれる・・とそう思ったのだが、部長の関心は中野との会話だった。
秋田室長個人のことを関係のない中野にしゃべったことを人事部の誰かに聞かれて、部長に告げ口されたと思い、早速謝罪したが、部長は会話の内容ではなくて、ここ最近、秋田と普通以上の接近をしている人物をチェックしているようだった。
「小川君、あの中野と言ったかな・・彼女以外で、何か秋田元室長に付きまとったり、親しくしていた人物を見聞きしたことはないかな。」
「いいえ。」
「秋田元室長は優秀な研究員だったが、人付き合いは苦手だったから、彼と誰かが一緒にいればすぐ目立つ。そういう意味ではあの中野という部下だけが彼と接点があったということかな。」
「はあ・・そこまではわかりませんが。」
その後小川は部長から、秋田と何かしら接点のあった所員を探り出せという特命を下された。
それは、秋田に共犯のいた可能性を調べているように思えた。
そして人付き合いがなかった秋田と、そういう関係になる者がいるとすれば、それは彼の研究グループの所員以外にはないだろうというのが、部長の考えであった。
小川はそのグループの新人研究員大迫やよいと中野緑の同期でもあった。そういうことから、徹底的に調査をするようにという厳命だった。
その翌日、人事部長は早速小川からの報告を受けた。
「部長、あの中野さんが秋田・・元室長から、
何か手紙を渡されたところを目撃した者がいました。」
部長は、静かに小川を見上げると、ゆっくりとした口調で、「ご苦労様でした。」と言った。
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