みどり(影山飛鳥シリーズ01)

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第49章 それから 「先生、今回の事件、よくわかりませんでしたね。」 鈴木がコーヒーを入れて、影山のところに運んだ。 影山は窓から外を眺めていた。 「先生、終わったんですよね。犯人は・・、 あ、植物だから人じゃないけど、植物がみんなやったんですよね。」 影山は「みどりが・・。」という秋田のダイイングメッセージを思い出していた。 確かに「みどり」が犯人だった。 娘の緑を捨てて、そしてみどりに殺されたというわけか。そう影山は考えていた。 秋田は懲戒免職を取り消され、死亡退職金やお見舞い金が大庭に渡った。 大庭はそれで父と姉の緑の墓を建てた。 二人の墓はみどりに包まれた霊園にあった。 前田室長は植物による人類へのリベンジを論文にして発表した。研究には熱心で、時には暴走してしまう性格がここにも現れたと影山は思った。 論文の内容は、現時点では何の証拠もないにもかかわらず、 環境を保全しましょう!  植物を保護しましょう!  という呼びかけだけが先行してしまって、 環境団体は別にして、どこにもとりあげられることはなかった。 しかし、今回の事件、果たして真相はこの通りだったのだろうか。 影山はどうもひっかかることがあって、その事件簿に「完結」という文字を記せなかった。 植物は人類より太古からこの地球に存在している。確かに今は人類がその頂点に立っていると言っても良いかもしれないが、植物がなくては、やはり生きて行くことが出来ないのだ。 その植物を人類が伐採して、種にプレッシャーを与えている。けれど、植物を絶滅することは決して出来ない。そうだとするとこれは植物の復讐ではなくて、植物の警告ではないだろうか。 これ以上植物を迫害すると、人類の存亡にかかわるぞと。 いや、これも可笑しい。既に人類はこんなことはとっくにわかっている。それだから自然保護だの、環境保全だのと、地球規模で懸命に行っているのだから。 だとしたら、今回のこの事件はいったいなんだろう。 そもそも地球の支配者は人間だろうか? 人類が支配者だと言える理由はなんだろう? それは、他者の命を奪えるから? 普通に相対したら、猛獣には勝てないが、色々な道具、武器を以てすれば、それらに勝る力を有しているのは確かである。当然、力の強いものがその王者足りうる。 植物はどうだろう? 植物だって枯らしたり、燃やしたりすればそれでおしまい。やっぱり人間の方が強い。だとすればやっぱり、人類は地球の支配者と言えるのではないだろうか。 でも、猛獣がいなくなって、即時に困ることはないにしても、植物はどうだろう。酸素をはじめ、温暖化の問題や、様々な局面で人類は危機的な問題を抱えることになる。 そうだとすれば、実は地球の支配者は植物なのではなかろうか。 人類より遥か古から地球に存在し、様々な生き物の生の源泉を供給し続けてる植物が、実は地球の真の支配者なのではなかろうか。 もし、今、彼らが二酸化炭素しか吐き出さなくなったら、地球上の生き物はどうなるのだろうか。 そう考えると、あらゆる生き物が植物の行動に支配されているのではないだろうか。 そして植物は、本能的なその活動の拡大のために、生き物を生かしておいているのではないだろうかと思えた。 それは単に種子を運ぶとか、自分たちの養分になるための、小動物、昆虫の死骸を生成するという意味だけではなく、そのものずばり、動物を通して、空を飛び周り、大地を走り、海を越えるために、植物は我々を存在させているのではないかと思った。 だから支配者の植物の害虫である人間は、 そろそろお役目ご免が近づいたのだよという、 そういう予告を今回の事件がもたらしたのではないかと、そう影山は思った。 「先生、ひとつわからないことがあるんですが?」 「なんだね、鈴木君。」 「はい、どうして中野さんはあそこで亡くなったのでしょうか?」 「あそこって、自分のマンションの前で?」 「はい。」 確かに言われて思い出したが、中野は温室や、 あの植物の生息地の青木ケ原で亡くなったのではない。 しかもあの件に関しても研究所の所員達は 無関係だったことが証明されている。 勿論、あの植物が原因とされたわけだが、 いったい中野はどこであの毒を浴びたのであろうか。 あの毒は即効性があると言われている。 そうであれば自宅マンションの近くでということになるが、あの近くであの植物は見つかっていない。 また研究所であれば、その効果が現れるまで時間がかかり過ぎている。衣服について、それが時間が経って体内に回ったとか? いや、それも考えられない。 何故なら、あの日満員電車に揺られて帰宅したとされる彼女が、その途中の誰にもその悪影響を与えずに、自分だけ死に至ったということはありえないからである。 その時、影山の脳裏にある衝撃が走った。 「まさか・・・。」 彼は目の前の受話器を取ると、あの研究所の前田にその考えを伝えた。
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