25:旦那様と海と紅茶

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「ほら、あなたって結構忘れっぽいから」  保胤は意地悪気に笑った。  広縁の椅子から立ち上がり、部屋の電気をつけた。暗い部屋が一気に明るくなり一葉は眩しさで目を瞬く。 「……本当に嫌だったら逃げてもいいですよ」  明るい部屋で一葉に背中を向けたまま、保胤はそう言った。一葉にはその背中が少しだけ寂しそうに見えた。 「……逃げたりなんかしません」  一葉の言葉に保胤は振り返る。目が合うと少し驚いた顔をしていた。 「ご、ご自分で言っておいてそんな驚いた顔しないでください……もっと恥ずかしくなります」 「……ふふっ」  思わず保胤は吹き出し、「そうだね」と小さく謝罪した。  三日間限りの、最後の夫婦の時間が始まる。
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