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「お味、どうでしょうか?」
味噌汁を三上に味見してもらう。小皿に乗せた汁をくいと飲むと、三上はにんまり笑って片手で丸をつけてくれた。
「ばっちりでございますよ!」
一葉はほっとした様子で笑った。別の小皿をとって自分も味見をしてみる。
「良かった……少し薄いかと思いましたが保胤様のお好みに合うでしょうか?」
他人の食の好みほど難しいものはない。自分の夫となる人間となるとなおさらだ。なにより保胤と自分の食生活はきっと別次元のものだろうと一葉は思っていた。
喜多治家に来てからはご飯に汁もの、それになにかおかずが一品ついていればいい方で、粗末な食事が常だった。一葉自身食の好き嫌いはもとよりなく、残飯でも三食食べられるだけマシだと思いながら過ごしていた。自分だけ刺身が出なかったことだけは少し根に持ってはいるが。
上流階級の保胤が何を食べて育ち、何が好みなのか全く分からない。まずは保胤の普段の食生活を知るところからスタートだ。
「あ、それでしたら――」
「三上さん」
背後から声がして振り返ると、背広姿の保胤が立っていた。
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