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昼間案内された時は気付かなかったが、夜訪れると目の前に何も遮るものがない、広大な星空が広がる。大きな窓から庭一面見渡せるように設計されたサンルームはその空の広さまでも計算尽くされていた。目線を遮らぬよう木々は適度に選定され、見事なまでの絶景だ。床には白と緑のタイルが敷かれ丸テーブルと椅子が一脚。いずれも籐細工で作られていた。
籐の椅子に腰かけて、一葉はしばらくその景色に見惚れた。そして、落ち込んだ。
「こんな素敵な場所に盗聴器を仕掛けるなんて益々心が痛むなぁ……」
一葉は深いため息をついた。これが自分の仕事なのだと覚悟しているが、それでも主が大事にしている場所に触れると決心が鈍る。
一葉は決心の揺らぎを打ち消すようにぶんぶん頭を振る。やらなければならない。この日のために三年間、教育を受けてきたのだから。
喜多治家の諜報員、つまりスパイとして――
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