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2:旦那様は覆面の変人
洋館の門をくぐり、正面玄関の前に立つ。チャイムを押したが反応はない。
「お留守かしら……」
今日が嫁入りの日だと知らないわけではないだろうに。もしかしたら嫁ぎ先でも快く受け入れられていないのかもしれない。
薄暗い気持ちを抱えながら、誰かいないだろうかと一葉は敷地内を探索する。遠くから見るとお化け屋敷のような異様さを感じたが近くで見るとその印象は少し変わった。
(すごいお屋敷……さすがは緒方家……)
煉瓦造りの外壁は、古そうにみえるが劣化は感じられず、どっしりとした重厚感が漂う。焦げ茶色の煉瓦に白い木枠の開き窓がいくつも設置され、そのコントラストが美しかった。
何より圧巻はこの花々だ。
正門を抜け、正面玄関まで色とりどりのコスモスや洋菊が植えられており、さながら花畑のようだった。周辺の鬱蒼とした雰囲気と中は随分と様子が違っていた。
「窓の多いお屋敷だなぁ」
窓からそっと中を覗いてみたが、誰もいない。物音ひとつせず、これはやはり不在だろうと一葉は察した。
「ん……?」
一葉は鼻をくんくんと動かした。この匂い、知ってる。
嗅ぎ慣れた匂いにどこか緊張の糸が解けていく。匂いの元を辿るように鼻を動かしながら足を進める。広い敷地内をぐるぐる歩いていくと、徐々にその香りも強くなっていった。
洋館の裏側へ回ると、今度はパチパチと火をくべる音が聞こえてきた。細い煙も上がっているのも見える。
裏側は広大な庭だった。その庭の真ん中に枯葉の山がこんもりと置かれていた。近づいてみると音と匂いの正体は枯葉の山が元になっていた。これは――
「焼き芋だぁ……いい匂い~!」
「誰?」
後ろを振り返ると、覆面の男が立っていた。
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