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日程を間違えた!?
そんな馬鹿な!?
慶一郎も玲子も使用人達も今日が嫁入りだと言わんばかりの振る舞いだった。全員、勘違いしていたのだろうか。
「あ……」
違う。間違えたんじゃない。これはわざとだ。一葉は給仕の女性たちの会話を思い出した。
――嫁入り先もさすがにびっくりするんじゃない? まぁ、早く出て行って欲しい気持ちは分かるけどさぁ
「……も、申し訳ありません。私ったら早く保胤様にお会いしたくて日取りを勘違いしたみたいです。出直して参ります」
これ以上保胤に悪い印象を持たれるのは避けたかった。それに、わざと追い出されたからといって嫁入り前の家に世話になるわけにもいかない。
一葉は保胤と三上に頭を下げて敷地から出ていこうとした。
「そ、そんな! お帰りならずとも……まだ何の準備も出来ておりませんが一葉様がよければこのままお越しくださっても構いませんよ!」
三上が慌てて一葉を引き止める。
「ねえ、保胤様。よろしいですわよね?」
「一葉さんは焼き芋はお好きかな?」
三上の言葉には返さず、木の枝で枯葉の山をほじくり返しながら保胤は一葉に尋ねた。この辺はもういいね、などとのんびり言いながらぶすりとさして芋を持ち上げる。
「え? えーと……はい、焼き芋は大好きですが……あの……?」
「……ふ、大好きか。正直なことはいいことだ」
保胤は三上から新聞紙を受け取り、枝にさした焼き芋を包んだ。
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