プロローグ

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「フフッ......」 「何がおかしい?」 「いいや、べつに君のことを嘲笑したわけではないよ。ただ単に、嬉しかっただけさ......こんな他愛のない、しかしながらそれでいて、とても有意義なこの会話を、友人である君と出来ることが、僕は堪らなく嬉しいんだ」  そう言いながら友人は、今度は紅茶の横に置いてある焼き菓子に手を伸ばす。  そして一口、その焼き菓子を口にして、しばらく咀嚼をした後に、また友人は、言葉を続ける。 「......けれどやはり、嘆かわしいモノだ。コレで人は、生まれついてから死に果てるまで、本当の自由を知らぬ生き物になってしまった」 「それはいくらなんでも、悲観のしすぎだ。これしきのことで、人の自由が完全に損害されるわけではない。もっとも、ここで言う自由というのが、一体どういう定義なのかにも、よるけれどな......」 「フフッ......君と僕の考えている自由が、違うと言うのかい?」  そう言いながら友人は、俺の方をジッと見つめる。 「さぁ、どうだろうなぁ......」  そう言いながら俺は、友人の方をジッと見つめる。  ジッと見つめながら、ゆったりと、友人はまた口を開く。 「少しだけ、話題の絞りを締めようか」 「......」 「自由という言葉についてだ。自由とは、思い通りに振る舞えて、束縛や障害が存在しない(さま)のことを言う。しかしまた同様に、道理などを無視した身勝手な自己主張。そういう風に説明することも出来る」  「同じ言葉を指している筈なのに、随分とニュアンスが違うんだな」 「あぁ......しかしこの説明は、紛れもなくどちらも、自由という言葉を説明するのには、十分に足り得ている」  言葉を切って、友人は座っていたソファーに、さらに深く腰掛ける。  そして脚を組みながら、言葉を続ける。 「しかし、そこが問題なんだ。言葉というモノは、同じモノを定義している筈なのに、その説明一つ、文章一つで、受け手に与える印象は大きく変わる」 「しかしそれは、言葉というモノの特性上、仕方のないことだ。言葉には、目には見えない幅がある。だから俺達人間は、文字というモノに置き換えることで、それを可視化する」 「けれど全てを可視化することが出来ないのも、また事実だ。そこには必ず、隙間が生まれる。そしてその隙間は、いずれ大きな溝となる。人を呑み込める程の深さを、伴いながら......」  そう言いながら友人は、俺の方をジッと見つめる。  しかしそれでいて、その友人の視線は、その友人の言葉は、まるで俺の方を向いていない。  俺ではない誰かを、俺ではない何かを、友人は最初から、ずっと見つめ続けていたのだ。  だから俺は、友人に尋ねる。 「お前は、一体何の話をしている......?」
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