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新人よりも幾分、俺に年齢が近い上司が言う。
「国民のバイタルデータが一斉に消えるなんて......これは一体どういうことなんでしょうね、新堂さん?」
そしてその上司の言葉に、俺はありのままをそのまま、言葉にする。
「......っと言われましても、私にも何がなんだかわからない状態ですので......」
緊急の面談を行うための会議室で、向かい合いながら座っている俺と上司。
年齢が五つ程下の者に対して敬語を使うこと自体に、俺自身まったく抵抗がない......わけではないが......仕事上仕方がないと割り切れる。
しかしこうもあからさまな声色と態度だと、普段は気にしない程度のことでも、引っ掛かってしまいそうになる。
しかしながら、そんな俺の心境は、きっと向こうは知る由もないのだろう。
いいや、こんなちっぽけな心境は問題ではないのだから、知らなくていい。
それに、むしろ可哀想なのはこの上司の方だ。
ただでさえ扱い辛いであろう俺の立場に気を遣いながら、普段は誰よりも仕事をしており、今もなお、本当はこんな面談をするよりも、通常業務に時間を割きたい筈である。
だからだろうか、ため息交じりの声で、上司が言う。
「わからないじゃ、困るんですけれどね......」
「......」
「まぁ、起きてしまったことをどうこう言っても仕方がないです......しかしそれでも、何も手を打たないという訳にもいかないんですよ、新堂さん」
「たしかに、そうですね......」
そう言いながら、俺は視線を少しだけ、その上司の目から外す。
人間誰しも、同じところを寸分違わずに見続けることなど出来ない。
そしてそれは、目の前にいる上司も同じことだ。
俺の力のない返答を聞いた後、彼は手元にあるタブレットに視線を落として、操作する。
「そこで、新堂さん......貴方には暫くの間、外部調査をお願いしたいと思っております」
「......外部調査......ですか?」
聞き馴染みがない言葉を訊き返すと、目の前の上司はそれを「はい」と肯定した。
だから俺は、その肯定した内容について、勘違いがない様に、詳細を確認した。
「......それは、今回バイタルデータがなくなった者達の所へ、直接足を運ぶということでしょうか?」
「えぇ、まさしくその通りです」
「あまりにも、直接的ですね......それに危険です......」
そう言いながら、再び彼の瞳に視線を向けると、既に彼の視線は、俺の方を向いていた。
そしてそのまま、表情を変えずに彼は言う。
「えぇ、そうでしょうね......だから貴方に適任なんですよ、新堂さん。なんて言っても、貴方は元々、調査局のエースじゃないですか?」
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