消えた国民、隠された事実

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 目の前に座る上司に対して、俺は視線を向けながら、言葉を紡ぐ。 「......ずいぶんとまぁ、古い話を持ち出すんですね......私が調査局に居たのは、もう十年以上前のことですよ......もう、ただの一般人です......」  そう言いながら、どうすれば彼との会話を、この話題からは関係のない所に持って行くことが出来るのか、それだけを俺は、考えていた。  しかしながらその目論みは、意図も簡単に打ち砕かれた。 「それでもやはり、今回のこの件に関しては、貴方以上の適任者は居ないんですよ。だって、そうじゃないですか......」 「......」 「あの事件は、もう十年以上前の話になりますよね?」  そう言いながら上司は、机の脇に置いてある、俺の経歴が書かれている書類に視線を落とす。  そしてそのまま、わざとらしく、俺に語り掛ける。 「そういえばあの事件も、最初は十人の国民のバイタルデータが、一斉に消えたことから始まったんですよね?まるで......今回の様に......」 「......なにが、言いたいんですか?」  そう言いながら俺は、目の前に座る上司を見つめる。  しかしその視線は、恐らく最初のそれとは、意味合いがまったく違うのだ。  到底、部下が上司に対してする様な目では、なかったのだろう。  それだけは......  たとえ鏡がなくともそれくらいは、なんとなく理解できるのだ。 「......怖い顔をしますね。しかしそんな顔をするということは、あながち見当違いなこと......というわけでもないのでしょう」 「......模倣犯がいると......そういうことですか?」  そう俺が口にすると、その重々しい俺の声色と同じくらいの重さで、彼は頷いた。  そしてそのままの流れで、彼は続けた。 「当時の犯人はたしか、自殺でしたっけ。確保する直前に、調査局員の目の前で......ですよね?」 「......えぇ、そうです」 「そうなるとやはり、模倣犯の存在を疑うのは、容易なことでしょう」 「......そうでしょうか?」 「......」 「......」  疑問符の俺の言葉を最後に、無音が会議室を包み込む。  その空気はまるで、部屋の酸素を全て吸い込んでしまいそうになっている様な、そういうモノだった。  そしてその空気に、どうやら耐え切れなくなったのは、俺だけではなかったらしい。  寸分早く、目の前に座る上司は徐に、立ち上がった。 「話は以上です。業務内容の詳細は追って連絡します」  
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