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しかしその疑問符の返答が、友人から返って来ることはなかった。
その代わりに、けたたましい程のアラーム音が、聞こえてくる。
そしてしばらくして、自分がコッチ側にいることを、自覚する。
自覚して、目を開いて、意識を取り戻す。
仮死状態から、通常の活動が出来る状態にするために、身体が起動する。
そしてその状態のまま、もう朧気となってしまった、友人の声を想いながら......
ノイズ混じりの、途切れ途切れの、不思議な記憶......
そんなモノを想いながら、俺は呟く。
「そっか......夢か......ったく、趣味が悪い......」
そう言いながら手で顔を抑えて、そう自覚して、自分が生きている世界に視点を合わせながら、身体を起こす。
仕事に行くために、身支度を整える。
洋服を着替えて、髭を剃り、顔と髪の毛を整える。
朝から流れるニュースには、天気予報が流れている。
そしてその後に、昨晩のスポーツのハイライト、流行の店や服の特集、街中の人に対しての、どうでもいい様なインタビュー、その他諸々......
それらが全部終わって、番組が切り替わる。
時刻は丁度、八時を十分ほど過ぎた頃だろうか......
職場へ行く用意を全て済ませ、テレビを消して、冷蔵庫からゼリー飲料を取り出して、家を出る。
職場には電車を使って通勤しているから、鍵を閉めた後に、そのままの足取りで、最寄りの駅に向かって歩き始める。
歩きながら、手に持ったゼリー飲料の蓋を開けて、それを口から流し込む。
そしてその間に、もう最寄りの駅には到着しているから、流し込んで、空になったゼリー飲料の容器を手に持って、改札を通る。
そしていつも使う階段の、近くにあるゴミ箱に、空になった容器を捨てて、その勢いのまま、歩みを止めずに、階段を上がる。
これが俺の、新堂 浩一の、いつもの日常だ。
正直に言ってしまえば、不満はある。
乗っている電車は地下鉄のはずなのに、どうして階段を上がらなければいけないのか......
朝はそこまで得意じゃないから、激しい運動は控えたい。
けれど......
この世界に生きている今の俺の不満なんて、結局のところ、その程度のモノなのだ。
そんな風に、自分の不満の小ささを、自分の中で消化しながら、俺は今の時間を確認するために、左手の甲を見る。
そしてそこには、青白い光で、今の時刻が映し出される。
時刻は八時二十分。
漢数字で表示されたその時刻は、俺が視線を外すと消える。
そして外した視線の先で、到着した地下鉄の扉が開く。
西暦四千二十三年の日本。
今日もいつも通り、電車は他人で、溢れている。
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