消えた国民、隠された事実

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消えた国民、隠された事実

 事務室に入り、午後の業務のためにPCを起動する。  そして隣に座っている新人も、業務を行うために、同じ動きでPCの電源を入れて、さっきと同じ様な口調で、しかしさっきとはまるで別の話題を「あっ、そういえば新堂さん」という言葉を皮切りに、俺に促す。  そしてそこからは、本当にただの雑談だ。  休日に昔ながらのカフェやバーに行くことを趣味にしているこの新人は、そこで食べた料理や飲み物、その店の雰囲気や、そこで会った初対面の女性(ヒト)と過ごした一夜なんかも、よく話題にして俺に話す。  まったく......  無駄に顔が良い新人のその話題は、後半の方は特に、危うい気もするのだが......  休日は家に居ることが多い俺にとっては、週初めの月曜日に話されるその話題が、些か鬱陶しいと思う反面、自分だとそういう所には出向かないし、もちろん初対面の女性(ヒト)なんかとも、そういうことになることはない。  だから彼のそんな話は、聞いている分には、まるでチープな深夜ドラマでも見ている様な、そういう感覚になって、少しだけ面白かったりする。  だからまぁ飽きもせず、毎週そんな話を、俺は彼から聞いている。  矛盾していると、自分でも思いながら。 「さぁ、そろそろ仕事をしよう」  そう言うと、新人は少しだけ、不満そうな表情をする。  どうせまた明日も、同じ話をする癖に。  そんな風に思いながら、PCの画面を確認して、そして午後の業務を行う。 「......えっ?」 「ん?どうしたんですか、新堂さん」  そう言いながら、新人は俺のPCの画面を覗き込む。  そしてその画面を見て、新人も俺と同じような、表情になる。 「これ......どういう、状態ですか......?」 「いや、俺もわからん......」  そう......そこに映されているのは、モニタリングされたデータと、そのデータの対象とされている国民の顔写真と名前が、細かく列記されていた。  ある数名を除いて...... 「こんなの、はじめて見ましたよ。モニタリングされたデータだけが、綺麗に空白にされているなんて......何かのバグ......ですかね......?」  そう言いながら、俺の方を見る新人に、言葉を返す。 「どうなんだろうな......もしバグなら、お前の方でも、同じことが起きているんじゃないのか......?」 「それは......いや、ありえなくはないですよね......確認します」  そう言いながら新人は、自分が担当している国民のバイタルデータをチェックするために、PCを操作する。  しかし新人には、俺と同じようなことは、起きていなかったそうだ。      
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