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誰にも渡したくない。
こいつは俺のものだ。
自分でも狂ってると思う。
これは紛れもなく強姦であり、犯罪だ。そいつが誰かにこのことを話せば、俺はきっと捕まるだろう。なのにそいつは、俺の言葉に僅かに目を見開き、そして小さく微笑んだのだ。その顔はとても綺麗で、俺は気づいた。こいつの心は汚されてはいない、と。
俺のものになったと思ったのに、違っていた。そいつの身体をどんなに汚しても、心は汚せなかったのだ。
イライラした。
俺はそいつの全てを汚せなかった。
そんなそいつに、俺は顔では微笑み腹ではムカついいた。そしてその苛立ちは、いつまでも消えなかった。
そいつが誰かと話す度、俺はイライラした。だから呼び付け、そばに置いた。こいつはここにいなきゃいけないんだ。なのに俺が呼んでも来ない。バイトがあるという。ならそんなもの辞めてしまえ。金がないなら俺のところに住めばいい。そうすればいつでも俺のそばに置いて置けるから。
俺はそうしてそいつを縛っていった。
人間関係も時間もバイトさえも、俺はそいつから奪っていった。そして俺の部屋に閉じ込めた。
なのに俺の苛立ちは消えない。
そいつを閉じ込め、何度抱いてもそいつの心は汚れなかった。
どんなにそいつに理不尽なことを言っても、どんなに乱暴に扱っても、そいつは俺に逆らうことはなかった。常に従順に従い、自らその股を開いた。
でもそれが、却って俺の心を煽った。
どうしたらこいつの心は汚せるのだろう。
優しさの欠けらも無い性交。
相手を思いやることの無い、避妊具なしの中出し。
痛みに顔を歪め、決して快楽で無い呻き声を吐きながら、それでも俺に従い、自らを差し出すそいつに、俺の苛立ちは治まるどころかエスカレートしていく。
そしていつも、ことが終わると我に返る。そして死んだように横たわるそいつの姿に、俺の心に深い罪悪感が生まれるのだ。
焦点の合わない視線。
浅く繰り返される息遣い。
そして精液に塗れぐったりとした身体。
こうしたのは俺だ。
いつからか、俺は自分が抑えられなくなっていた。
そいつを見るとイライラして痛めつけたくなる。
初めはそれでも自制できていた。むしろどうしたらその心を汚せるか、あらゆることを試していた。けれどいつの間にか、俺の中にどうしようもない凶暴性が生まれた。そしてそれは自分でも抑えることが出来ない。
そいつを前にすると湧き上がるその衝動に突き動かされるまま俺はそいつを抱き、終わると我に返ってその罪悪感に押しつぶされそうになる。なぜまた俺は、こいつにこんな酷いことをしてしてしまったのか。
自分のしてしまったことを直視出来ず、俺はそのまま部屋を出る。だけど手離したくない。こいつは俺のものなのだ。だから俺は次の日も変わらぬ顔でそいつと接し、決して関係を崩さない。
自分でも酷いと思う。
散々痛めつけながら、謝罪ひとつなく当たり前のような顔をしてそいつをそばに置いているのだ。それも何年も。だけどだめなのだ。俺はそいつと離れることなんて考えられない。だけど、今のままでいいはずがないのも分かっていた。だから、思う。そいつの方から、俺のそばを離れて欲しいと。
別に手枷をつけて監禁している訳では無い。部屋には鍵もかかっていない。そいつは普通に学校に行き、就職してちゃんと会社に行っている。だからいつでも俺から逃げられるはずなのだ。
普通は逃げるだろ?
あんなに酷い仕打ちをして、甘い言葉も謝罪もなく、当たり前のようにそいつを自由にしているのだ。そんなことをされたら嫌に決まってるし、もうそばになんていたくないと思う。なのにそいつは逃げなかった。
馬鹿みたいに毎日同じことを繰り返し、毎夜のように俺に犯された。なのにそいつはいつも変わらなかった。そしてその瞳も、汚すことは出来なかった。
だけど・・・。
ついに汚せなかったそいつの瞳は、いつしか輝きを失っていった。
このままではこいつはダメになる。
そう思っても、俺は自分を抑えられなかった。
駄々っ子のようにそいつを手離したくないと喚く自分がいる。だけどもう、無理だ。
俺はついにそいつを手放した。
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