カメラ越しの君。

4/6
前へ
/6ページ
次へ
 パッとレンズに顔が映って、ハッと瞬きをする。 「――……え、れ、怜奈(れいな)?」  見間違えるはずもない。ぱっちりとした大きな目。いつも困ったように見える八の字のような眉。長くて美しいまつげ。  もうすっかり見慣れた、大切な人の顔がそこに映っていた。  レンズ越しに、彼女はにっと白い歯を見せて笑う。 「久しぶり、貴也(たかや)」  慌ててカメラから目を離し、前を見る。だが、そこに彼女はいない。目をこすってみても、瞬きをしても、彼女は見えない。 「な、なんで……」 「――カメラ越しじゃないと見えないよ」  りん、と澄んだ声だけが直接脳に響くように聞こえた。  言われるがまま、もう一度ファインダーを覗き込む。 「……見える」 「でしょ」  彼女はいたずらに笑って、それからじいっとこちらを見て言った。 「元気だった?」 「……いや」 「だよね。知ってた」  困った子でも見るように眉毛をさらに八の字にして「まったくもう、」と言いながら笑う。  そういえば、と思い出す。彼女はよく笑う人だったな、と。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加