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「ちゃんと生きてくれないと私、天国行けないよ」
彼女の言葉に、僕はぐっと唇を噛む。
「……身近にいた人が、いなくなったら、そりゃ生きづらいだろ」
「それは、ごめんね」
彼女の申し訳なさそうな顔に、目を逸らしたくなる。けど、できない。
「でもほら、貴也にはカメラがあるでしょ」
彼女は続ける。
「知ってるよ。本気でカメラマン目指してたこと」
ひゅう、と風が吹き、僕の頬を撫でていく。
カメラ越しの君の髪は、風に揺れず、彼女の動きにだけ合わせて揺れていた。
「私ばっかり撮ってうつつ抜かしてたけど」
「――っ、それはっ」
君が、怜奈が好きだったから。
その言葉だけがただ、喉の奥に詰まって出てこない。
「……もう君に撮ってもらえないのは、さみしいけど」
風が止み、彼女は笑った。
笑いながら、じっとレンズ越しに僕を見る。
「……僕は、怜奈がいる未来が欲しかった」
精一杯の言葉だった。風がまた、強く吹く。
レンズ越しの彼女は、差した太陽の光に透けた。
「――もう時間」
つぶやく彼女はまた、少し笑った。
「――……貴也、ばいばい」
瞬間、レンズがパッと日が差して、焼けるくらいまぶしくなった。
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