3. 彼女の瞳に映るもの

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 電車を降り、遊馬たちは迷宮のように入り組む駅構内を抜けていく。閑散としていた電車内とは裏腹に、駅構内は行き交う人でごった返していた。どうやら遊馬たちの乗っていた路線だけ乗車客が少なかったようだ。楓は遊馬の傍にピタリとくっつくよう腕を両手で掴み、人の波にのまれぬよう必死に歩を進めていた。  そのまま歩き進めること十数分、やっとのことで開けた場所に出て人混みから解放された。ほっと一息をつくふたりの傍ら、疲労困憊であると言わんばかりに両手を膝に当てて息を深く整える楓。その姿はまさしく、フルマラソンを走り切った後のランナーのようであった。 「ハァ...ハァ...遊馬...さん。私、もう...」  遊馬は声のした楓の方へと振り返り、その疲労具合を目の当たりにした。 「か、楓? 大丈夫か」  声をかけるなり、楓がよろついて遊馬の方へと倒れ込んできた。遊馬は慌てて楓の身体を支える。 「あ、遊馬さん。ごめん、ありがとうね」 「そんなことはいいから。どうした、しんどいのか?」 「都会って、こんなにキツいところだったんだ。私みたいなインドアには厳しいところだったんだね。でもいいや、都会の空気が吸えただけでも幸せだよ。もう思い残すことはないさ。今までありがとう、遊馬さん。ガクッ」  荒い吐息混じりに息を切らしながらも長い台詞を言い切った。 「か、楓? ど、どうしたん...だ?」  らしくない楓の言動に分かりやすく困惑する遊馬。その姿を見て、後ろで神原がクスクスと笑いを堪えている。 「ごめんね。ちょっと今の感じ雰囲気があったから、ついテンプレート的な流れをやりたくなっちゃって。普通に人混みで疲れちゃっただけだから心配しなくても大丈夫だよ。  あの子のがうつっちゃったのかな...」  最後の一言だけ、楓はボソッと声を漏らすように言葉を発した。 「そ、そうなのか。でもよろけるくらいってのは相当だ。どこかで少し休憩にしようか」 「まあ、あんな冗談が言えるくらいには元気だよ。でも心配してくれてありがとうね」 (ぐぅー)  楓は疲労を隠しながらも遊馬に微笑みかけた。 「おふたりさんや、こんな時間だしそろそろ休憩がてら昼飯にしやせんか? 誰かの腹の虫も鳴ってることですし」  神原はふたりの方へと順に顔を向ける。遊馬は何のことかさっぱりという表情を浮かべたのに対し、楓は顔を赤らめて素早く目を逸らした。数秒のタイムラグの末、遊馬は楓の反応からようやく状況を理解できたようだ。 「それもそうだな。よし、昼飯にしようか」  遊馬と神原で楓を軽く支えながら、出口の改札へとゆっくりと歩を進め始めた。
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