3. 街に出よう

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 くまぽんとの楽しい写真撮影会を終え、一同は休憩がてら昼食を取るべく遊馬オススメのご飯屋へと足を進めていた。楓はくまぽんからプレゼントされた写真を手に、ちらちらと何度もそれを眺めてはにこやかな笑みを浮かべている。  道案内係りの遊馬を先頭に歩を進めること数分、人通りの多い大通りから一本か二本逸れた路地裏らしき道に差し掛かった。先ほどまでとは打って変わって人気(ひとけ)が一切なく、日中にも関わらず薄暗い雰囲気が漂っている。建物の隙間を吹き抜ける風が立てる不気味な音も相まり、余計に遊馬以外の初見ふたりの心に不安を募らせた。 「遊馬さん。道、間違ってません? なんかいかにも不気味で危なそうな道なんですが...」  神原がやや声を震わせながら前を歩く遊馬に言葉を飛ばす。楓も左に同じと言いたげな顔をして、小刻みに頷いてみせていた。 「そう言いたくなる気持ちも分かるが安心して良い。大丈夫だ」 「今の時間ならってなに? え、遊馬さん? 今の時間ならってなに」 「ほら、つべこべ言わずにさっさとついてくる。もう店はそこなんだから」  年季の入った雑居ビルが立ち並ぶ中、遊馬の指さす先にはポツンと一軒だけ背丈の低い建物が佇んでいた。建物自体は比較的新しく、周囲の風景とは対照的なモダンなデザインが目を引く。 「ふぅ、まともな店で良かった...」 「だね。周囲の雰囲気がアレだから、ちょっと心配しちゃったよね」  ふたりは店を目にした途端、無意識に入れていた体の力が抜け、ホッと安堵の息を漏らした。 「とにかく中に入ろうか」  遊馬が店の前に立つと自動で扉が開き、中へと足を進める。後ろに続いて店に入ろうと足を進めるふたりであったが、楓がふと扉横の看板を見て足を止めた。 「あれ、準備中って札が掛けてあるけど入っていいのかな? 18時営業開始って書いてるけど...」 「ああ、それなら気にすることはないよ。この店にそんな概念はないから」  遊馬は躊躇なく店の中へと入っていった。残されたふたりは遊馬の言葉に首をかしげつつも、おどおどとした様子で後を追った。
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