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「そうそうかえでちゃんさ、結局遊馬くんとはどういう関係で?」
楓との会合の約束を取り付けてご満悦の様子の瑞沢が、咄嗟に思い出したかのように話題を振る。
「どういう関係。どういう...関係」
楓は言葉の意味を理解しようと、小さな声で何度も質問された言葉を復唱する。
親戚でもなければ知り合いでもない、赤の他人から始まった楓と遊馬たちの関係。元はと言えば、身寄りのない自身を匿って欲しいからと遊馬を脅して形成された関係。そんな客観的事実が楓の脳裏をよぎる。
「...」
真実なんて話せる訳がない。であればその場しのぎに親戚だとか言って、適当に誤魔化せばよいと考えるのが自然な流れだ。だが楓は口を噤んだまま動かない。むしろそんな表向きのことはどうでも良いといった様子であった。
自分は遊馬の何なのか、考えれば考えるほどに迷走してゆく。一緒に過ごしたのはまだ僅かな期間だが、確かに覚えた居心地の良さ。果たしてこれが自分だけのものなのか、はたまた遊馬たちも感じていることなのか。自身の想像するものと現実との差異を想うが故に、楓は不安に苛まれていた。
「かえでちゃん? 大丈夫?」
何か様子がおかしいことに気付いた瑞沢が、やや体をテーブルに乗り出して楓に声をかける。
「俺が変わって答えようか。楓は友達の子供なんだ。訳あってちょうど先週末から楓をしばらくこっちで預かることになった」
真実は話せない。その点では同じ考えのようだ。遊馬は無難な関係性で真実を覆い隠すことを選んだ。
「なんだ、そういうことだったんだね。にしても3人えらく仲良しだよね。さっき厨房から遊馬くんたちを眺めてたけど、それこそふたりは親子のような暖かさがあったというか。神原くんだっけ?は歳の離れた兄みたいな感じだったし」
「楓はもう家族みたいなものだしな。そう見えるのも無理はない」
遊馬が言葉を終えた瞬間、俯いていた楓がゆっくりと顔を上げ、遊馬の方へと視線を向けた。その瞳は今にも溢れそうな涙で輝いていた。遊馬の言葉に深い意味があったわけではないのかもしれない。しかし楓にとって、その言葉は光となり希望となっていた。
「か、楓? どうしたんだ?」
「うん、そうだよね。遊馬さん、ありがとう」
楓の表情には先ほどまでの曇りが一切なく、閉じていた蕾が光を浴びて花開いたような、満面の笑みが浮かんでいた。一方遊馬は楓の言葉の真意を理解できず、終始頭にハテナを浮かべたような表情をしていた。
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