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4. 彼女の瞳に映るもの
瑞沢の店を後にし、一同は駅前の大型ショッピングモールへと足を進める。
その道中の駅前広場に差し掛かると、再びあの愛らしい着ぐるみの姿が目に入ってくる。と同時にくまぽんの視線が俊敏に遊馬たちの方へと向けられた。そして再び始まる愛想全開の手振りアピール。楓と瑞沢は嬉々とした様子でくまぽんに手を振り返している。
「遊馬さん。僕、くまぽんが怖いです。なんですか、あの早すぎる反応速度は!? 着ぐるみの、いや、人間の反応速度じゃないっすよ」
「なあ神原、俺もちょっと怖い。行き交う人々の隙間から常にくまぽんの視線を感じるんだが」
遊馬と神原は熱烈なくまぽんのアピールを後目に、目前の目的地へと足早に向かった。
ショッピングモールに到着し、中に入って一息をつく。特に遊馬と神原は、肩の力を抜いて大きく安堵の息を吐いていた。振り返り際にふたりの様子を目にした瑞沢が声をかける。
「どうしたの? ふたりともそんなぐったりした顔をして」
「ヤツの、ヤツの眼差しが恐ろしくて...」
遊馬がモールの外の広場の方向を指差す。
「ヤツって、もしかしてくまぽんのこと? くまぽんが怖いってどういう神経してるのよ。あんなに愛想満天で可愛らしい格好してるのに」
「ね~」と楓に同意を得ながら、ふたりの姿を背にした瑞沢は呆れた表情を浮かべていた。
「そんなことより早く行こうよ!」
遊馬たちのやや前方、瑞沢と並んで歩く楓がくるっと振り返り、微笑みながら手招きをした。遊馬と神原はふたり目を見合わせて苦笑し、楓の方へと歩み寄る。明るく笑みを浮かべる楓の姿に、ふたりも自然と笑みを浮かべていた。
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