4. 彼女の瞳に映るもの

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 瑞沢に店の選定を任せ、楓の必需品を揃えるためモールを巡り始めた。瑞沢と楓が並んで前を歩き、その後ろを遊馬と神原が続いて歩いていく。  少し歩くと店の雰囲気が一転し、見渡すかぎり今時のブティックやアクセサリーを扱う店がずらりと並んでいる。遊馬や神原の年代であれば、このようなファッションに関心を持つ人も多いが、彼らは例外だ。辺りに広がる光景を目にし、ふたりはまるで別世界に迷い込んだかのような反応を浮かべていた。  対して前方のふたりは、服やアクセサリーの店をあれこれと指さして楽しみながら会話を弾ませているようだ。その笑顔が絶えない姿は、見ているこちらまで微笑んでしまうような和やかな雰囲気を醸し出していた。  ナチュラル系っぽい服を主に取り扱うショップに到着し、瑞沢と楓が中に入って服を物色し始めた。残された遊馬と神原は店の前の椅子に座り、あれこれと服を手に取って選ぶふたりの姿を眺めながら会話を交わしている。 「瑞沢さんに来てもらってよかったですね。僕らじゃ知識不足で何も口出しできないですから」 「ましてや今回は女の子の服選びだからな、難易度が高すぎる。まあ知識の無い俺らは戦力外という訳で、こうして遠くからそっと見守っておいてやろう」  ふたりを見守るその姿は、まるで我が子を見守る保護者のようであった。  ひとまず選定を終えて気に入った上下のセットを見つけたのか。瑞沢に連れられて楓が服を手に持って試着室へと入っていった。試着室のカーテンが閉められた直後、瑞沢がくるっと遊馬たちの方へと体を向けてグッドサインを送った。 「なんですかね、あれ?」 「楓に似合う可愛い服をしっかり身繕っておきましたよ! って意味じゃないか。多分」 「おぉ、さすが瑞沢さんと付き合いが長いだけあって意思疎通はバッチリですね」  しばらくして試着室のカーテンが中から少しだけ開かれ、楓がひょこっと顔だけを覗かせて瑞沢を呼び出す。瑞沢がカーテンの中を覗いて試着の具合を確認するが、束の間も経たぬうちにカーテンの中から顔を戻し、何やら至福そうな表情を浮かべて深呼吸をしている。そして遊馬たちの方へと高速手招きをして招集をかけた。 「なんか瑞沢さん楽しそうですね」 「楽しそうですねじゃなくてだな。とにかく呼ばれてるみたいだから行くぞ」  遊馬が神原の腕を引っ張り、ふたりは瑞沢の待つ試着室へ向かった。
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