四章 少年の過去

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四章 少年の過去

 装飾品を受け取った直後、テオの腕をつかんで顔を見つめた。紫の瞳にセレナの顔の輪郭が映っている。 「――テオ」  なんだかもう、泣く気力もなくなってきた。過去に戻ってきたことこそが、あの場でテオが死んだ証明のように思えてしまった。 「セレナ……どうした?」  気遣う声をかけられた。この場面でテオに心配されるのも三度目だ。案ずるべきなのは、セレナの心境などではないのに。 「……ううん。なんでもないわ」  顔を背け、首を振った。 「なんでもないような顔じゃ――」 「大丈夫」  また駄目だった。だが、落ち込んでいる暇などない。絶望するより先に、まだやれることがあるはずだ。  そうでなければ、なぜ過去に戻ったのかわからない。 「あなたは自分の心配だけしていて」  それだけ告げて、セレナは夕方の空き教室をあとにした。  夢を見た。  セレナはテオの死体に取りすがって泣いていた。温もりがなくなった他殺死体。目の前にあるのは、生きている人間ではなかった。  場面が切り替わる。魔術学院の講堂で、学院長の養子となった少年の葬式が挙げられた。  通常、学院で死者が出たら、故郷で葬式が挙げられるだろう。テオの両親はもういなくて現在の養父は学院長だから、学院で式を挙げられることになった。  現実感が希薄だった。テオも学院の生徒と教師全員に見送られるなんて、思っていなかっただろう。セレナと再び交流するようになってからも、他の生徒とは距離があるかかわり方をしていたのだから。  親しいと言える相手は、レヴィナス家の分家の少年くらいだった。だがテオを殺したのはシャルロだ。彼は学院を去った。この場にいないのは、よかったのか悪かったのか。  棺に花を入れる。花で埋められた棺の中に、幼馴染だった存在が入っている。  泣き続けた後は、セレナの中は空っぽになった。どうすればよかったのか、これからどうすればいいのか、わからなかった。  ハインリヒに決闘を持ち掛けられたときのように、テオがなにかいい方法を教えてくれるかもしれない。きっとそうだ。裏をかいたような方法だろうが、反則だろうが構わない。それでどうにかなるのなら。  ――ああ、そうだわ。テオはもう、いないのだった。  テオがいない未来を生きていく。哀しみは薄れ、幼馴染のことも忘れていく。日常の忙しなさに飲み込まれて日々を過ごしていき、それが普通になっていく。  そのことを思うと、どうしようもなく恐ろしかった。  死者に囚われていては前に進めないから。死を乗り越えて、その経験を己の糧にするべきだ。  そんな一般論は知らない。  ――わたしは、諦めたくない。  目が覚めた。涙が頬を濡らしていた。  これは一周目の記憶だろうか。それとも一周目の世界が続いていたらこうなっていたという予測だろうか。  一周目の記憶。そんなはずはないのに。テオが死んでいるのを発見してから、すぐに過去に戻ったのだから。  でもあの夢は、セレナの本心を的確に映し出していた。  テオを生かしたい。あんな未来は認めたくない。そのために、できることをしなければ。  学院の図書館は魔術関連の本だけでなく様々な分野の本があり、大量の蔵書が棚を埋め尽くしていた。  館内の片隅のあまり利用者がいないであろう一角に、国内の過去の事件をまとめた記録があった。その中に、セレナとテオの故郷の街のことも記されていた。  六年前、魔術師ドミニク・カナートの屋敷で爆発事故があった。屋敷は大破し、カナート夫妻は亡くなり、子供が一人生き残った。  爆発事故。明確な原因はその記録には書かれていないが、三周目で学院が燃えていたことを連想するには十分だった。  その二つが同じ原因によるものだとしたら――テオの身体に刻まれた魔術式が、原因なのだろうか。  最初は魔術師の屋敷一つ、次は広大な敷地を持つ学院に被害が出た。  人間の身体に魔術式を刻むことは禁じられている。禁じられているということは、不可能ではないということだ。  誰かがテオの身体に、学院を破壊できるほどの魔術式を刻んだ。親が亡くなり、故郷の街を出てからだろうか。――いや、違う。  家族で暮らしていた屋敷の爆発事故も、それが原因なのだとしたら。ここ数年の話ではなく、子供の頃、既に刻まれていたのかもしれない。  ――ついて来るなよ。  ――普通の魔術師の家の子と仲良くする気はないから。  テオと会った当初に言われた言葉が蘇った。  セレナの家が格下だと言われているのかと思っていた。確かにセレナの家は名門ではなく、魔術師の家としてはありふれた中流の家だ。  だけど、テオが言いたかったのはそういうことではなかったのだとしたら。  テオを養子にした学院長は、そのことを知っているのだろうか。魔術に人一倍詳しい者なのだから、知らないとも思えない。  親に魔術式が刻まれた子供を、学院長は保護したのか。そう思った。  シャルロか学院長を問い詰めれば、詳しい話を教えてくれるのだろうか。セレナがテオの幼馴染だとしても、部外者には適当に誤魔化して終わりだろうか。  これからの行動を決めかねていたある日の放課後、テオから声をかけられた。 「セレナ。最近元気がないようだが……」 「心配してくれるの? なら、少し話をしたいわ」 「話……なんだ?」 「場所を移動しましょう」  移動した先は、一年の教室と同じ階にある空き教室だった。まだ祭りの準備のために運び込まれた荷物は少ないが、棚の手が届きやすい場所は少しずつ箱で埋められていっている。  先にテオを中に入れて、セレナは扉を閉める。本来の時間軸でテオが殺された部屋で、二人は向き合った。 「それで、なにかあったのか? まさか、またあの先輩がなにか――」 「それに関しては決闘で解決したわ」  むしろ二周目、三周目では情報提供やシャルロの件で役に立ってくれた。人は見かけによらない。子供の頃は親しかった幼馴染のことだって、セレナはよく知らない。  だから、知りたいと願った。 「テオが抱えている事情、全部教えてくれる?」 「別に大したものは――」 「テオの身体には、広範囲を破壊できるほどの魔術式が刻まれている」  そう指摘すると、テオの肩が跳ねた。 「刻んだのはあなたの親?」  室内に沈黙が落ちる。  テオの親が実の子供に魔術式を刻んだかどうかは、証拠などなにもない。いくつかの事実を組み合わせた末の推測だったが、即座に否定されず、適当に誤魔化されることもなかった。  苦い顔をしていたが、やがてテオは諦めたように息を吐き出した。 「……どうしてそう思う?」 「魔術式が発動したのを見たからよ。学院が見事に破壊されたわ。その上で、過去に戻ってきたの」  それを聞いて、テオは狼狽した。二周目に未来を見てきたと告げたときとは明らかに違う反応だった。 「それなら――俺は、君を……この学院にいる者を殺したのか」  苦渋に満ちた声で、テオはそうつぶやいた。意外そうではなかった。テオはその未来が来るかもしれないことを、予測していたのだ。  それなら二周目でテオが自殺した理由も予想がつく。魔術式は、テオが死ぬと発動しないのだとしたら。テオは、魔術式が発動して学院一帯が破壊されるのを止めようとしたのだ。 「詳しい話を教えて」 「……ああ。といっても、概ね君の予想通りだが」  そしてテオは、事情を語り出した。  ◆  ――お前は生まれながらにして他にはない力を持っている。多大な魔力だけではない。名門の魔術師でさえ使えない力だ。さすが私の子供だ。選ばれた存在なのだ。  そう、父に言われ続けてきた。  ――だからどれだけ痛みを感じても我慢しなさい。我らはテオを素晴らしい魔術師にするために、お前のための思ってやっているのだから。  そんな親と暮らす毎日が、テオにとっての日常だった。  生まれ育った家は、普通と違うのかもしれない。そうテオが気づきはじめたのは、魔術師の子供を集めて勉強を教える私塾に入ってしばらくした頃だった。  無邪気で無垢で無知で、万能感に満ちていて、自由奔放で幸せそうな子供たち。年上の子供だけでなく、同じくらいの年の子供も、自分とは違う存在に見えた。  普通の魔術師の家の子供は、家族から魔術の実験を施されてはいないらしい。痛い想いはしていない、苦いものばかり食べさせられてはいないようだ。  それどころか毎日好き勝手に生きている。好きなように笑い、泣き、怒り、授業中におしゃべりをして遊びだす子が何人もいた。  大人の意に反することをしたら、叩かれて怒鳴られるものではなかったのか。私塾の先生は穏やかな性格の人で、注意はしても子供に対して手を上げることはなかった。  そんな子供たちを、テオは冷めた視線で見つめていた。  ――この子たちは僕とは違う。  そう感じた。  ――私塾は基礎的な勉強を身に着けるために行くものだ。他の魔術師の子供と慣れ合う必要はない。  父が言ったことが頭を過ぎった。命令に反することをしたらまた叱られるだろうな、とも。  子供は無邪気だからこそ残酷だ。悪気なく、異端と断じた者を排除しようとする。  無視されるだけなら気が楽だったが、大勢で取り囲んで暴力を振るうことで自分の力を誇示しようとする数人の集団が、その私塾にいた。  その集団はテオよりも少し年上の子たちで構成されていた。中心にいる男子はずんぐりとした体格で同年代の子よりも発育がよく、痩せっぽちなテオよりもずっと大きく見えた。  塾での勉強が終わった帰り道で、私塾近くのひと家がない地で殴られ、蹴られた。罵声を浴びせられた。家の中も外も同じだと感じた。  父に何度か言われたことがあった。  ――お前は他の魔術師の家の子供よりもずっと、魔術を習得している。だからこそ、攻撃の魔術を他人に使ってはならない。この家の評判を落としたくはないだろう?  だったら暴力を振るうのはいいのか。親が子供に苦痛を与えるのはいいのか。  親に魔術を使って怪我させたら、食事を作ってもらえなくなるかもしれない。魔術師としての仕事ができなくなり、お金を稼げなくなるかもしれない。  だから親は自分たちの身体では実験せず、痛いことは子供に押しつけているのだ。  ――この子たちを傷つけても、僕が困ることはない。  家の評判が落ちたら父に怒られるだろうか。まあいいや。親の言うことを聞いて大人しくしていても、魔術の実験はいつまでも続いて、痛いことは終わらないのだから。  魔術を行使するために使う杖は、私塾に行く際は持って来ていなかった。だが時間はかかっても、精神を集中させて魔術を発動させることはできる。  苦痛には慣れていて、肉体の痛みと精神は別物として切り離せた。それにテオを取り囲む子供たちは自分たちの優位を確信していて、逃げることなどないだろうから。  やり返そう、と決めた直後。 「こらあ、やめなさい!」  叫び声とともに年上の子たちの集団に飛び込んで行ったのは、今日から私塾に入った波打つ黒髪の女の子だった。  多勢に無勢、数人の年上の子たち相手に敵うはずもなく、ぼこぼこにされたけれど。  闖入者が盛大に騒いだからか、通りかかった自警団員が近づいてきて、喧嘩をしている子供たちを引き剥がした。  その隙に、へたり込んでいたテオは少女に腕をつかまれて引き起された。そして自警団員が止める声も聞かず、少女はテオを引っ張って逃げ出した。  しばらく走ってからひと気のない場所に建つ建物の影で足を止めて、少女は誰も追って来ないことを確認した。 「大丈夫?」 「……そっちこそ」  二人とも服は土埃にまみれていた。テオほどわかりやすく怪我はしていないものの、少女も突き飛ばされたり転んだりして、あちこち痛いはずだ。  だが少女は酷い目に遭ったわりに、けろりとしていた。 「昔話に出てくる、困っている人を助ける魔術師のようにはいかないわね。でも安心して。次はもっとうまくやるわ」  物語の影響を受けて、自分もすごい存在になれるのではないかと思い込んでいる子。毎日なに不自由なく暮らしているから、そんな考えに思い至る、幸せな子供。  最初の印象はあまりいいものではなかった。 「それであなた、同じ私塾の子よね。名前は?」 「テオドール・カナート……」 「じゃあ、テオって呼ぶわね」  身内くらいしか呼ぶ者がいない愛称を、彼女はごく自然に口にした。 「さっきはありがとう。じゃあ、これで……」  社交辞令として淡々と礼を述べて別れようとしたが、踵を返して歩き出そうとすると腕をつかまれた。 「待って。わたしの名前、言ってみて」 「……」  私塾の先生の名前は憶えていたが、同じ部屋で勉強する子供の名前など、ろくに認識していなかった。今日私塾に入った子ならみんなの前で先生が紹介したはずだが、興味がない情報は耳に入っても頭に残らずにすり抜けていた。  なにも言えずに押し黙っているテオに、彼女は名乗った。 「セレナ・エスランよ」  第一印象は悪かったはずなのに――名前を口にして微笑む少女に、テオの心はざわめいた。  翌日。私塾の授業が終わった後、セレナがテオを追いかけてきた。 「ねえ、先に帰らないでよ。またあの子たちに絡まれたら困るでしょ? わたしが護ってあげる!」 「いい。必要ない」 「じゃあ、テオは友達がいないみたいだから、わたしが友達になってあげる」 「いらない」  同じ年の子供に対して姉御風を吹かせたくて、集団から外れた子供の面倒を見たくて堪らなくて、弱者を護ってあげることで自分の存在価値を確かめたい。セレナはそんなお節介な少女に思えてならなかった。 「おかしいわね。弟や妹に遊んであげるって言ったら喜んでくれるのに」 「遊び相手は求めてないから」 「じゃあ、一緒に身体を鍛えましょう。あの子たちに勝てるように」  鍛えるまでもなく、魔術を使えば簡単に勝てる。そう言ったら、セレナは気に入らないと怒るだろうか。自分より強い存在の面倒を見ようとは、思わないだろうか。  結局テオは、既に魔術を使えることをセレナには言わなかった。  最初、テオはセレナのことを鬱陶しく感じていた。けれど同じ年頃の子供でテオに笑顔を向けてくれるのは、セレナだけだった。  何度ついて来るなと拒絶しても、セレナはテオに近づいてきた。他の子と一緒になって無視するようにはならなかった。  自分の英雄願望のためだとしても、テオを害する者に立ち向かってくれた。助けてくれようとしてくれた。  セレナがテオにかかわるのは自分のためだとしても、いずれ飽きて他の子と遊ぶようになるとしても――彼女といる時間が長引くことを、テオはいつからか望んでしまっていた。  テオの他者に対しての壁は、セレナに対してはだんだん薄れていった。彼女が無遠慮にかかわってくるのを拒絶しなくなった。  私塾の授業の合間に教室で話をするようになり、一緒に帰るようになった。二人で遊ぶようになり、ともに過ごす時間が増えていった。  セレナと会って何ヶ月か経った頃、教室でこんな会話を交わした。 「最近のテオ、素直になったわね」 「そう?」 「あと、優しくなったわ」  満足そうにセレナは微笑んだ。 「年上の子たちに絡まれていたから、人類はみんな敵、みたいな暗い顔をしていただけで、本当のテオはきっと穏やかないい子って信じていたわ。わたしの読みは当たったのね」  名推理を披露するかのように言うセレナに、テオはかすかな笑みを返した。  セレナに対する態度こそ仮面を被っているようなものだ、と言ったら失望するだろうか。  本当のテオは、魔術師である親の道具だ。意志のない人形と同じだ。感情も情緒も存在しないかのような育て方をされて、同じ年頃の子供とかかわることを禁じられてきた。  魔力や魔術の知識が他の子供よりも秀でているとしても、それだけしかなかった。他者とのかかわり方など知らなかった。  だがいまは、セレナが望む自分でいたかった。ぎこちない笑顔だとしても、付け焼刃の優しさだとしても、こうした姿を演じていたら、セレナの傍にいられる気がした。  ――人間に魔術式を刻んではいけないという。だが、禁忌に挑まずしてなにが魔術だ。  ――これまでの実験で魔術式との親和性を高めたお前ならば、我らの理想を実現してくれることだろう。  父に破壊の魔術式を刻まれた。まずは利き腕から。これから少しずつ時間をかけて、全部の魔術式を身体中に刻んでいくという。  最初に利き腕を終わらせてしまえば後が楽だからと言われたが、腕が痛いだけではなく、熱が出て酷い頭痛に襲われた。この痛みが何度も繰り返されると予告されたようなものだった。  身体が痛くて動けない間は私塾まで行けない。家にいたら、さらに魔術の実験を施される。体調が悪くても、純粋な休養の時間なんて滅多になかった。  ベッドの中で、テオはセレナからもらったペンダントを握り締めた。  実験や魔術式を刻む間に親に見つかったら取り上げられるかもしれないから、普段は隠し持っているかベッドの中に隠している。テオの宝物だ。  セレナの名前を構成する文字、職人が作ったものに比べたら未熟で洗練されていない形。  小さな装飾品が、彼女とつながっていられる証に思えた。  通っている私塾は十歳までの子供が対象だった。一年経つごとに年上の子が抜けていき、やがて入塾した当初のテオに絡んできた年上の集団もいなくなった。  私塾に通うようになってから三年が経とうという頃、授業が始まる前の教室で二人は話をしていた。 「今年はやっとわたしたちも十歳になるのね。立派な魔術師に一歩近づくのよ。楽しみね」  セレナは自分たちの成長を喜び、大人になることを待ち望んでいるようだった。  もっとも身近な大人、身近にいる魔術師は、自分を害する存在だった。そうした認識のテオは、大人や魔術師という存在に対して夢も希望も持っていなかった。  それよりも、セレナと一緒に私塾に通えるのはあと一年ということに、落ち込んだ。 「私塾の勉強をやり切ったら、そのあとはどうするんだ」 「師について魔術の基礎と心構えを勉強するのよ。それから先は、魔術学院の入学試験のための勉強ね」  目を輝かせてセレナは語る。  魔術の心構えはともかく基礎なら、テオはもっと幼い頃から無理やり教え込まれた。やはりあの家のやり方は、一般的な魔術師の子供に対してやるものではなかったようだ。  心構えは他人に攻撃魔術を使うな、家の外でおいそれと使うな、くらいしか言われていない。  入学試験のための勉強もしたことがない。親がテオを魔術学院に入れるつもりかどうか、そうした話を聞いたこともなかった。 「もしかして、私塾を終わらせた後のことは決まってないの?」 「うん」 「ご両親が忙しいの?」 「うーん……」  多忙ではあるのだろうが、それ以上に両親は一般的な魔術師とは違うようだ。そのことをセレナに伝えたくなかった。 「あの、もしも本当になにも決まっていないのなら――その上で、テオのご両親がいいって言ったらだけど」  セレナは珍しくもじもじした様子を見せた後、意を決した顔でテオに提案した。 「わたしと一緒に、同じ魔術師に教えてもらわない? お父様に頼んでみるわ」 「……本当?」 「私塾をやめた後に、もう会えないなんてことになったら寂しいでしょ」  頬を赤く染めて、セレナはそう言った。  同じ街に住んでいて家が近いとしても、私塾という共通の場がなくなったら、会う機会は激減すると思っていた。  だけどセレナが来年以降も会いたいと言ってくれるのなら、一緒に勉強することは無理でも、つながりは消えない気がした。
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