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それは長閑な昼下がり、クリプトニンジャ学園の教室で咲耶がSNSに上げる写真を吟味している時の事だった。
「やっば。火遁とか超忍者じゃん!? コンちゃんの忍術マジかっこいー。ってか、シャオランとリーリーのツーショット可愛い過ぎてアゲなんだが」
んーどれにしよう、いいね! いっぱい欲しいし。と、フォロワー数を眺めながらニヤニヤする咲耶。
先日忍術修行のコーチであるコンガをSNSにアップしたところ、
『何コレ!? ゴリラが泳いでる通り越して水上走ってるんだけどww』
と瞬く間に話題に上がりバズった。
フォロワー一桁からあっという間に脱した咲耶としてはこのまま勢いに乗りたいところ。
「んーバズるにはやっぱ派手な奴が良き? っていっても補講中コンちゃん収めるのガチで激ムズ案件なのよねぇ」
スマホ取り上げられちゃうしと悩める乙女はため息をこぼす。
その瞬間、
「さーくーやー!!」
「うわぁ、マジびびった。ってか、コンちゃん気配消して近づかないでよ!」
暗殺者かよ!? という咲耶のツッコミに、
「馬鹿な事を言うな。常日頃から気配を消す訓練を行うのは忍びとしての嗜みだ」
非常に真面目な回答が返ってきた。
そう、彼コンちゃんことコンガはここクリプトニンジャ学園の講師も行っている非常に優秀で真面目な忍者だ。
どれくらいできる忍びなのかというと、ゴリラなのに全く目立つ事なく人間社会に溶け込めるくらい優秀なのである。
「あ、ねぇコンちゃん! コンちゃん的にどれが忍者っぽいと思う?」
ポンっと手を打った咲耶は見て見てとばかりに先日撮影したコンガと祖父である岩爺の組手の様子を見せる。
「いやぁ、殺陣ってこう見てるだけで滾るじゃん? やっぱ忍スタにショート動画で上げる方がいいかなぁー」
#ゴリラが時代劇やってみた。とか受けそう、なんて割と真剣に言った咲耶の頭上にベシッと教科書が落とされる。
「いったぁ! コンちゃん暴力反対」
ゴリラの握力は平均500キロで成人男性の10倍よ!? と咲耶は文句を垂れる。
「む。すまん」
そして素直に謝るコンガ。彼は紳士なゴリラなのだ。
「じゃなくて、だ。お・ま・えはぁ! 忍者とは、耐え忍ぶ者の事を言うんだ。それをSNSで晒すとは何事だ!」
そう、本来忍者とは闇に紛れ決して姿を現さない影の存在。
だと言うのに許可もなくこうも堂々とネット社会に晒されるなど、コンガとしては忍びの矜持に反する。
というか、そもそも肖像権の侵害である。プライバシーも何もあったもんじゃない。
「咲耶、お前は忍術以前にまずネチケットを学ぶべきではないか!?」
ネチケット、とは言わずもがなネットを利用する上でのルールとマナーのことである。良い子のみなさんは当然、人様のプライベートをSNSで晒すなどしてはいけないことを知っている。
が、咲耶はチッチッチッ、と指を振りスマホをコンガに見せつけると、
「私、使える個性は"出していく"スタンスなのよ」
見て、この『いいね!』の数をと主張する。
「だいたい、現代社会において"耐え忍ぶ"なんて合わないわ! 忍者だって仕事が欲しかったらもっと宣伝に力を入れていくべきだと思うのよ」
咲耶は力強くそう言い切る。
先程コンガが提示した忍者の定義全否定である。
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