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遠野と廣瀬と僕と三人して一年二組の教室を出て、昇降口へと向かう。遠野哲の場所に視線を向ける僕に、安心したまえと廣瀬が、僕の背中を遠慮なしに叩く。
「あたしと付き合いだしたら、ピタリと終わったよ。遠野宛のラブレターは」
何人の片想い人がいたんだろう?
そうして、明るくて朗らかな廣瀬七緒がお相手だと納得しただろう。
「なら、よかった」
誰からも好かれている廣瀬ならそう何度も言い聞かせた。
「飛鳥、本当にそう思ってる?」
外履きの靴がバタバタと落ちていく。廣瀬が、ボブヘアーを揺らして、遠野に聞き返す。
「え?何の話?」
「七緒に知られたくない男の子の話だよ」
「えー、なんか嫌だよぉ~」
そういうことを考えたのか、童顔を両手で覆い隠す廣瀬。
『オレも好きだよ』
途中で終わった交換ノートの文字が、僕の頭の中に思い浮かんでくる。けれど、すぐさま違うと頭を左右に振って否定する僕。
「ごめん、飛鳥。七緒と二人で帰るわ」
黒いダウンジャケットを着て、手袋をしていない素手を七緒の右手に絡ませて、ポケットに忍ばせる。
恋人繋ぎを見せつけたくないのか
二人のポケットは温かいだろう。恋と言う温もりに包まれているからさ、僕の秘めた胸ポケットとは違う。掠れた声で、平気なふりをして無理やり笑って二人を見送る。
「ああ、いいよ。熱々な二人のそばに僕はいれないよ」
「えーあたしはいいのに~」
嬉しそうに赤らめた廣瀬が、僕を見て笑う。勝ち誇ったように見えないから、切ないんだ。
*
“すき”
その二文字を胸ポケットに秘めたまま、僕は一人、雪降る玄関を見上げていた。
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