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午後十時半。駅前から少し離れた場所にある、こじんまりとしたバー。
そこで――私は、お酒を煽っていた。
「ユウちゃん! とびっきりアルコール度数の高い奴、もう一杯頂戴!」
カウンターをバンっとたたいて、私は顔なじみ……というか、ほぼ幼馴染みたいな店員に、そう注文をした。
すると、その店員であるユウちゃんは「はぁ」とため息をつく。その後、その人のよさそうな顔立ちを歪める。
「葵ちゃん、飲みすぎよ」
ユウちゃんが私の目の前にある空になったグラスを見て、ため息をつく。
その言葉を聞いて、今度は私が顔を歪める番だった。
「飲みすぎ上等よ! 今日、なんの日だったかわかってるの!?」
「はいはい。彼氏と付き合って四年の記念日よね」
「元カレだけどね!」
ユウちゃんの言葉を訂正すれば、彼は呆れたような表情を浮かべ、カウンターに頬杖をついた。
「大体、そんな人は捨てて正解よ。……浮気する二股男なんて、最低だもの」
「そう、だけど……」
ユウちゃんの言葉は正しい。実際、二股をかけるような男は捨てて正解だと思う。……まぁ、私が捨てられたんだけれど。うん、そこは訂正したほうがいい気もする。……けど、いいや。
「でも、なんだろ。……忘れられないっていうか」
四年も付き合っていたからなのか。全く彼のことが忘れられない。
(そもそも四年ってなに? 中学生は高校生になってるし、高校生は大学生になってるんだけど!?)
我ながら意味の分からないたとえだとは思う。だけど、それが一番わかりやすいたとえだとも思う。
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