8話 幼馴染

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8話 幼馴染

「はぁ~」 ぼくは自室でため息をついた。 実は、姉リンは実の姉ではない。 それを知っているのはぼくだけ。 両親が亡くなる数日前に、この事実を偶然知ってしまったのだ。 姉は何と王族の親戚らしいのだ。 くわしいことは聞けなかったのだが・・・。 「この事を言ったら、きっとショックを受ける・・言うにしてもねえちゃんが、大人になってからのほうが良いに決まっている」 「家庭教師か・・」 見つからないのは、ぼくにも原因がある。 男性はお断りしているからだ。 ねえちゃんに男は近寄らせたくない。 自分勝手だとわかってはいるんだけど・・。 「見つからないようなら、取り下げに行かないとかな」 家庭教師じゃなくても別にいいか。 **** 俺はカーベル。 リンたちが引っ越してから一か月経った。 やっと王都に行く準備が出来た。 冒険者登録するために! ひょっとしたら、リンに会えるかもしれない。 わずかな期待を抱きながら、俺は王都へと向かった。 王都って都会だなぁ。 俺は道に迷ってしまい、キョロキョロしながら歩いていた。 ドシンと人にぶつかる。 「ご、ごめんなさい」 俺は尻もちをつく。 「気を付けな」 見ると腰に剣をぶらさげている、剣士だろうか。 ギロリとにらまれ、背筋が寒くなる。 幸いにも、男はすぐに何処かへ行ってしまった。 「はぁ」 早く冒険者ギルドへ行かないと。 でも道がよく分からないんだよね。 しゃがみ込んでいた俺の前を、見知った人が歩いているのを偶然発見した。 **** 「レイン!」 あれ?誰かがぼくを呼んでいる。 でも、どこかで聞き覚えある声なんだよな。 首を傾げていると。 「俺だよオレ、カーベル!」 「なんだ、カーベルか」 さっさと立ち去ろうとすると、カーベルに腕を掴まれた。 「冷たいじゃねえかぁ。幼馴染だっていうのに」 そう、カーベルはぼくとねえちゃんの幼馴染だ。 ただ、それだけだ。 「ぼく、忙しいんだよね。手放してくれる?」 「俺、道に迷っちまったみたいでさ。教えてほしいんだけど」 「・・・どこいくのさ」 「冒険者ギルド」 「仕方ないな・・。ついてくるといいよ。ぼくも行くところだから」 「ありがとう!」 カーベルは目に涙をにじませていた。 大げさだなぁ。 ぼくは仕方なく、カーベルを冒険者ギルドへ連れて行った。 カーベルは昔からねえちゃんが好きらしい。 だからぼくは顔も見たくない。 正直もう会いたくなかったのだけど。 会いたくないって思ってると、逆に会ってしまうのかもしれないな。 「腐れ縁か」 ぼくは冒険者ギルドで、家庭教師の依頼取り下げをしてもらおうとしたのだが。 「じつは一人、依頼を受けたいと言っている方がいるのですが・・」 ギルド職員の女性、セシアさんがぼくに提案してきた。 フードを目深にかぶった人が奥に座っていた。 「・・もしよろしければ、どうでしょうか?」 フードを目深にかぶり、ぼくに声をかけてくる。 赤い髪が少し見えた。 か細い声は少女のようだった。
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