それが僕じゃなくても

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1 「えー、なんで?」  喫茶店のオープンテラス。コーヒーカップから漂う湯気の向こうで、薄紅の頬が少し膨らむ。 「来てよ。お願い」  そう言って、彼女は小さな紙切れをペシンとテーブルに叩きつけた。ゴールドの枠の中に、開催日時と会場、諸注意が何点か。いわゆる式の招待状だ。 「なんで僕なの?」 「それは……見届けてほしいからだよ」  前にも同じ質問をしたことがあった。前回はたしか笑いながら答えてくれていたけど、今回は目の色がマジだった。  不意に白い装束に包まれた彼女の姿がよぎる。  ただひとつ言えるのは、僕は選ばれなかったということ。
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