いれる、いれる。

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 今日彼は、帰ってきてから出かけていない。ずっと次男と一緒に、ゲームをしていたはずだと。ということは。 ――あの子が、お兄ちゃんのポケットにこんなものを入れたってこと?しかも……毎週入れていた……!?  親として。本当は、真実を確かめなければいけなかったはずだ。しかし、その時私は責任感より恐怖心が勝ってしまっていた。それだけ、呪詛がいっぱい書かれた手紙は恐ろしく、絵に描いたような優等生の次男とは結び付かなかったためである。  とにかく、この手紙は処分しなければいけない。長男にバレないようにしなければいけない。私はそれだけを考えて、手紙をこっそり生ごみに捨てたのだった。そして、それから暫くの間、手紙をひたすら長男のポッケから抜いて捨てる日々が続いたのである。  恐ろしい贈り物は、それから半年ほど続いて、それからぴたりとなくなった。犯人が諦めたのか、憎悪がなくなったのかはわからない。ただ、少なくとも表向きは、天真爛漫でいたずらっ子の長男と、それに呆れる面倒見の良い次男という関係が続いていたのである。  現在、長男は大学生、次男は高校生。どちらもまだ私達と一緒に暮らしている。表向き仲はまったく悪くない。むしろ、小学生の時より良いほどだ。二人の関係は改善したのだと信じたい。もしくは、あれを入れたのは次男以外のまったく別の人間だった、とも。  同時に。 ――よく考えれば、おかしい。 『俺、やってねーよお!ちゃんとティッシュ抜いたもんー!』 『嘘つかない!ティッシュのビニール袋が、あんたのズボンのポッケに入ってたわ。あんたじゃなかったら誰がそんなことしたっていうの!!』  呪詛の手紙事件の少し前に起きた、ポケットティッシュ散乱事件。私は長男にあれだけきつく注意して、洗濯籠に入れる前にポケットを確認するよう約束させたのだ。  うっかり屋の彼のことだから、時々チェックを忘れることはあったかもしれない。それでも毎週必ず同じ曜日に入ってくる手紙を、毎回彼が見落とすなんてそんな偶然があり得るのだろうか?  長男は本当に、手紙に気付いていなかったのだろうか?もしも、気づいた上でスルーしていたのだとすれば――。 「母さーん。キッチンでなんか焦げた臭いすっけど大丈夫ー?」 「ぎゃっ」  今日も私は、いつも通り、長男に呼ばれてすっとんでいく。何も知らないフリをして息子たちに接する。  言い知れぬモヤモヤと、得体のしれない恐怖を感じながら。
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