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ビスケットの代償
ふしぎなポケット、という歌があるのをご存知だろうか。
作詞はまど・みちお。作曲は渡辺茂、編曲は横山菁児という有名な童謡である。タイトルは聞き覚えがない人も多いだろうが、こういう歌いだしを聞けば「あっ!」とひらめくのではないだろうか。
「ポーケットのなーかには、ビスケットがひっとっつ!」
僕は保育園で保育士をしている。小さな子供達を楽しませ、お世話をするのが僕のお仕事だ。
今日は子供達を喜ばせるために、ちょっとした芸を披露していた。といっても大したことはない。ポケットからビスケットを取り出して子供達に見せて、歌を歌ってあげるというだけである。
「ポケットをたたくとー」
僕は言いながら、ポン!とビスケットを入れたエプロンのポケットを叩いてみせた。
「ビスケットはふったっつ!」
「わあ!」
小さな子供達は、きゃっきゃと声を上げて喜んでくれた。僕が叩いたポケットから、二つになったビスケットを取り出して見せたからだ。
実際は、なんてことはない。僕のエプロンのポケットには元々三つビスケットが入っていて、一つ目をポケットの中で割ってみせ、二つ目三つ目の割れてないビスケットを取り出して分裂したかのように見せただけである。
それでも、こんなちゃちな手品でも小さな子供達は喜んでくれる。ねえねえ!と四歳の少女が僕の服の袖をひっぱった!
「ふしぎなポケット、ななちゃんもほしい!どうすれば、ビスケットがふえるポケットになるの?」
ああ、本気で目をキラキラさせて信じているのが可愛い。僕は笑顔で少女の頭を撫でて言うのだ。
「それはね、大人になれば手に入るようになるんだよ。ななちゃんが、素敵なレディになる頃には、きっとね!」
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