「ここに手を置いて」

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 遠くで笑う人がいた。大きな口を開けて、隠すことなくゲラゲラと女性にしては下品に笑っている。涙が出るほどひとしきり笑った彼女は、浅くなった呼吸を整えて今度は口角を上げて笑った。毎日教室に響くその笑い声を最初はうるさいと感じていた。  だが、気づけばその声が耳に残るようになっていた。どこにいても彼女の笑い声が聞こえて、どこにいても彼女の笑顔が浮かぶようになった。恋の始まりなんて明確なものはなくて、自分とは縁のない人だと思っていたのに、目が離せなくなっていた。
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