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ハルディア。わたしの大好きだった、十五歳年上の腕利きの錬金術師。調合を誤って毒霧を作ってしまった現場に居合わせたせいで、永遠に失われてしまったひと。
きちんとしていれば綺麗なはずの金髪をもじゃもじゃにして、蒼い瞳には子どものような探究心を宿らせて。
『錬金術で不死は達成できないだろう』
だけど、その目はこの世界の摂理から絶対に逸らされていなかった、真面目なひと。
『でも、不老、まではゆかずとも、人間の老化を遅らせたり、意識を別の身体に移し替えることで、近いことを実現することは可能になるはずだ』
彼はこの里の誰よりも冷静に、現実を見ていた。自分のできうる領分をわきまえていた。そんな彼の手助けをしたくて、わたしも将来は錬金術師になろうと決心したのだ。
彼の背中を追いかけたかった。ひいては隣に立って、同じものを目指したかった。
だけど、彼はもういない。
それでも、いや、だからこそ、わたしは錬金術師になった。
錬金術師がこの世界で不老不死に最も近い場所にいる職業ならば、できるかもしれないと思ったのだ。
死んだひとをこの世に呼び戻すことを。
古来から多くの術師がそれに挑み、叶わずながらも錬成法を書き残した書物を、わたしは書庫で漁り続けた。そして、果てしなく近い術式を編み出すことに成功したのだ。あとは、実践するだけ。
「マーサ?」
アーキスの呼び声で、わたしの意識は現在に回帰する。切れ長の目を細めて怪訝そうにこちらの顔を覗き込む彼から視線をはがし、そっけなく言い切る。
「迎えにきてくれたことには感謝しているわ。帰りましょう」
彼が明らかにほっと安堵の吐息をついたことには、気づかないふりをする。
「籠を持つよ」
「大丈夫」
身体をひねって、伸ばされる手から逃れる。この薬草は、秘術に必要なものだ。ほかの誰でもない、わたし自身の手で抱えていたかったから。
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