ピアスの輝き

1/1
前へ
/31ページ
次へ

ピアスの輝き

 稲荷山グループの小型ヘリに乗り込んだ勘解由小路は、子供を膝の上に乗せてだらけていた。 「ああああ、真琴ー。真琴、ママのおっぱいが恋しい。お前達はもう飲んでないんだったな?ママの尻、ママの腰、ママの太腿。ああ堪らん。真琴おおおおおおおおおおおおおおおおお!愛してるぞおおおおおおう!」  同乗したライルは、取り合っていられず、ワクワク顔でヘリの窓から見える景色を見ていた小僧(流紫降)に同調していた。  どうってことのない、青森桟橋が見て取れた。  ライルはイギリス生まれだったが、ある日勘解由小路と出会ったのがきっかけで、アメリカの学校に通うことになり、大学課程をダラダラ消化していたところを、おっさんにひっ捕まって日本にやって来たのだった。  まあ、一応アメリカの祓魔機関に所属してはいたのだが、じゃあ祓魔機関て何するところ?という疑問は一切晴れていなかった。  とりあえず、国家に仇なす妖魅は退治して、一応ライルの顔は立ったのだが、実は、アメリカは勿論、イギリスにも日本から得た知識を伝える気はサラサラなかった。  所詮、イギリスの祓魔機関「ドイルズ」からすれば、俺はただの裏切り者だしよ。  この手の仕事というのは、とかく数値化がしにくいジャンルの仕事で、まあ日本的な仕事だとは思った。  ただ、成果追求主義のアメリカで、この日本的感覚が、理解されるとも思っていなかった。  だったら、ダラけてミルフの1人や2人食って帰ろうと思っていた。  俺、金髪の貴公子風ノイケメンだしな。そんな風に思っていた。 「甘いぞサル」  突然言われた。  あ?と言うと、返答はすぐにあった。 「コッソリしたサボタージュなんかすぐバレるからな?ノウハウをタダでせしめようなんて甘い考えしてると、その内ホントに死ぬぞ?日本的感覚は理解されないと言うがな?現に日本は今にも滅びようとしていることを忘れるな。やるべきことをキチンとやれ」 「嫁のバスティ堪らんとか、子供いんのに言ってるあんたに言われたくねえよ!日本の危機は知ってるよ!日本が沈んだらアメリカだって沈む!」 双子共は、ライルの言に対して、父親がどう言い返すのかを気にしていた。 「俺は、あらゆることを把握した上で、子供とこうしてヘリ移動を楽しんでいる訳だ。流紫降ー、津軽海峡は楽しいか?もうすぐ千歳だ。給油したら、積丹半島まで飛んでいこうな?」  何でワクワクしてんだこのガキ。メスガキの方は仏頂面だが、親父の膝の上で嬉しそうにしてるし。 「まあ、例えば風間静也だ。あいつに目を付けたのは正解だった。あいつの体質はユニークだ。風獣憑きという、呪いのような状況で、知識ではなく本能で風獣を意のままに操っている。それがどれだけ凄いのか、聖剣カリバーンを託された、妖精使いのお前なら解るだろう?」  確かに。ライルは妖精使いだが、血統以外に押さえるべき部分があった。  制御しやすい妖精の類いでも、手痛いしっぺ返しを食らう危険性は十分にあった。 「まあ、あいつは俺がくれてやったピアスを付けている。雷獣憑きとて恐るるに足らん。使い方を知っていればだが」  教えてねえのか?と言うと、うん。って返ってきた。 「ああ、そういや師匠、あんた、ピアス換えたな?9年くらい前に付けてたあれだろ?風間が耳にぶら下げてんのは。そうか。あれはそういうもんなのか」  まあそうだ。おっさんはそう応えた。 「今は、真琴のイヤリングとお揃いの奴付けてるから、あれはもう要らん。実際、あの時、あの小僧が気付くまで忘れてたくらいだしな。あれは、俺が手ずから調整した奴だった。一言で言ってしまえば、ペンタグラム降魔さんスペシャルといった塩梅で、頭に血が上った碧くらいなら誑かせるぞ?」 「流紫降気を付けろ。パパに誑かされるぞ?」 「碧ちゃんが、父さんを襲わなきゃ意味ないけど」 「ああまあ、あれは最強クラスの魔除けだからなあ。お前達にだって効くさ。ああ轟さん、静也達が見えた。ちょっと向こうで降ろしてくれ。俺は関われんのだ。ライル。場合によってはカリバーン振り回してこい。静也が万一死ぬようなことがあればだが」  そして、暴戻な父親の虐待に喘ぐ者達の死闘が始まったのだった。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加