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ピアスの輝き
稲荷山グループの小型ヘリに乗り込んだ勘解由小路は、子供を膝の上に乗せてだらけていた。
「ああああ、真琴ー。真琴、ママのおっぱいが恋しい。お前達はもう飲んでないんだったな?ママの尻、ママの腰、ママの太腿。ああ堪らん。真琴おおおおおおおおおおおおおおおおお!愛してるぞおおおおおおう!」
同乗したライルは、取り合っていられず、ワクワク顔でヘリの窓から見える景色を見ていた小僧に同調していた。
どうってことのない、青森桟橋が見て取れた。
ライルはイギリス生まれだったが、ある日勘解由小路と出会ったのがきっかけで、アメリカの学校に通うことになり、大学課程をダラダラ消化していたところを、おっさんにひっ捕まって日本にやって来たのだった。
まあ、一応アメリカの祓魔機関に所属してはいたのだが、じゃあ祓魔機関て何するところ?という疑問は一切晴れていなかった。
とりあえず、国家に仇なす妖魅は退治して、一応ライルの顔は立ったのだが、実は、アメリカは勿論、イギリスにも日本から得た知識を伝える気はサラサラなかった。
所詮、イギリスの祓魔機関「ドイルズ」からすれば、俺はただの裏切り者だしよ。
この手の仕事というのは、とかく数値化がしにくいジャンルの仕事で、まあ日本的な仕事だとは思った。
ただ、成果追求主義のアメリカで、この日本的感覚が、理解されるとも思っていなかった。
だったら、ダラけてミルフの1人や2人食って帰ろうと思っていた。
俺、金髪の貴公子風ノイケメンだしな。そんな風に思っていた。
「甘いぞサル」
突然言われた。
あ?と言うと、返答はすぐにあった。
「コッソリしたサボタージュなんかすぐバレるからな?ノウハウをタダでせしめようなんて甘い考えしてると、その内ホントに死ぬぞ?日本的感覚は理解されないと言うがな?現に日本は今にも滅びようとしていることを忘れるな。やるべきことをキチンとやれ」
「嫁のバスティ堪らんとか、子供いんのに言ってるあんたに言われたくねえよ!日本の危機は知ってるよ!日本が沈んだらアメリカだって沈む!」
双子共は、ライルの言に対して、父親がどう言い返すのかを気にしていた。
「俺は、あらゆることを把握した上で、子供とこうしてヘリ移動を楽しんでいる訳だ。流紫降ー、津軽海峡は楽しいか?もうすぐ千歳だ。給油したら、積丹半島まで飛んでいこうな?」
何でワクワクしてんだこのガキ。メスガキの方は仏頂面だが、親父の膝の上で嬉しそうにしてるし。
「まあ、例えば風間静也だ。あいつに目を付けたのは正解だった。あいつの体質はユニークだ。風獣憑きという、呪いのような状況で、知識ではなく本能で風獣を意のままに操っている。それがどれだけ凄いのか、聖剣カリバーンを託された、妖精使いのお前なら解るだろう?」
確かに。ライルは妖精使いだが、血統以外に押さえるべき部分があった。
制御しやすい妖精の類いでも、手痛いしっぺ返しを食らう危険性は十分にあった。
「まあ、あいつは俺がくれてやったピアスを付けている。雷獣憑きとて恐るるに足らん。使い方を知っていればだが」
教えてねえのか?と言うと、うん。って返ってきた。
「ああ、そういや師匠、あんた、ピアス換えたな?9年くらい前に付けてたあれだろ?風間が耳にぶら下げてんのは。そうか。あれはそういうもんなのか」
まあそうだ。おっさんはそう応えた。
「今は、真琴のイヤリングとお揃いの奴付けてるから、あれはもう要らん。実際、あの時、あの小僧が気付くまで忘れてたくらいだしな。あれは、俺が手ずから調整した奴だった。一言で言ってしまえば、ペンタグラム降魔さんスペシャルといった塩梅で、頭に血が上った碧くらいなら誑かせるぞ?」
「流紫降気を付けろ。パパに誑かされるぞ?」
「碧ちゃんが、父さんを襲わなきゃ意味ないけど」
「ああまあ、あれは最強クラスの魔除けだからなあ。お前達にだって効くさ。ああ轟さん、静也達が見えた。ちょっと向こうで降ろしてくれ。俺は関われんのだ。ライル。場合によってはカリバーン振り回してこい。静也が万一死ぬようなことがあればだが」
そして、暴戻な父親の虐待に喘ぐ者達の死闘が始まったのだった。
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