兄弟

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兄弟

 雷撃が、岬の先にポツンと立つ神威岩(かむいいわ)を破壊した。 地質的には、何の繋がりもないただの自然石だったが、深い地下では霊的に連絡されていた。  雷撃は、岩そのものではなく、霊的な繋がり自体を断ち切っていた。  微弱な地震は、やがて局地的な大地震となって岬を、それがある積丹半島(しゃこたんはんとう)を襲った。  静也は、大きくせり上がった岬の上に立ち、相対する光忠と向かい合っていた。 「さあ。終わりの始まりなんだって。レイラインだっけ?そっちは茨城で済んでたんだけど、寝ぼけた龍の頭を叩いてこいって言われたんだ。その方が、ほら、凄いびっくりしてるね?龍がさ」  今、この少年は日本を滅亡させようとしているのに、まるで悪びれない邪悪な無邪気さがあった。 「逃げないの?じゃあ、僕と戦う?でも、僕を倒したところで、日本の沈没は止まらないよ?」  東雲光忠は、愉快そうに断じた。  それは事実だ。もう、全ては手遅れになってしまった。  もうヘリ置いてきちゃったし。カプコンヘリって基本なくなるし。  どっちにしろ、ヘリじゃ逃げられないもんこれ。  あー滑走路も止まってるから、今から逃げてももう遅いのよね。  田所紀子は、国民を見捨てて逃げる算段をしていた。  酷いのは解ってるけどさ。もうこうなったら逃げること考えなきゃ。  あれ?静也は何で逃げないの?  あー、あの馬鹿、どうせしょうもない、決着をつけるんだ。とか考えてない?  静也は、長い沈黙の末に、こう話しかけた。 「えっと、君は、ピカチュウ?」 「あはははははは!そんな訳あるかああああああああああああああ!」 「いや、真面目に考えて、そうとしか思えないんだよな。狙ってるとしか、思えない。雷獣。本名か?それ?ピカチュウとしての一生を受け入れたのか?」 「違うって!思わず笑っちゃったじゃないか!何で僕がピカチュウなのさ?!」 「普通に字を見てみろ。どう見ても光忠(ピカチュウ)じゃないか」  あああ。やっぱり静也だ。こいつ、基本的にこういう奴なのよね。 「あああああああああ!もういいよ!さっさと死んじゃえよ!行くよ震結(しんけつ)!僕の雷獣!!」  稲妻を轟かせて、雷獣が出現していた。  強い風が吹いた。風が巻いたあとに、それは現れた。 「ムク。敵はあいつだ。こちらにも頼む。僕に力をくれ」  2頭の巨獣と少年達は、激しく激突した。  かつてと同じく、光忠は静也の背後を取って、左腕に手刀を叩き込んだ。  風が渦を巻いた。光忠の手刀は、静也の左腕の前で、風の障壁で阻まれていた。 「へえ。こないだとは違うみたいだね?」 「ああ。いいようにされるだけの子供じゃない。僕は、いや俺は」  期せず、兄弟は睨み合う。それは、呪いにも似た絆故のものだった。
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