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風を具して
積丹半島に、2人の獣人の顕現があった。
雷獣を身に秘めた、金毛の獣。
風獣と魂が結び付いた、白毛の獣。
獣人。古に伝わるライカンスロープの姿があった。
二魂一対のライカン。恐ろしい咆哮が、周囲に轟いた。
癇癪を起こしたらしい雷獣人が吠えた。
「大丈夫ですか?紀子さん、随分恨まれてますよ?」
あー。紀子は応えた。
「そんな気がしたんで、一応幽体離脱してますけど。徹底的に木気を衰退させてますからね。まあ、静也が負けたら、死にますね?確実に」
陰陽師って、周囲が死んでも自分だけは無事だって認識だったのだが。
「流石に、我が国の皇女を蔑出来ませんね。彼が死んだら、私が出ます」
ああね。一瞬でバラバラにされるって霊感が。
「まだ、兄弟の名乗りはしていないようですが。彼の頑張りに期待しましょう」
やっぱり怖いわこの人。負けるな静也。
紀子は、クラスメイトの勝利を願うしかなかった。
広域に、雷撃が地表を這ったが、静也までは届かなかった。
いよいよ、雷獣が怒り狂う気配を感じていた。
俺は、ムクと同化して安定しているのに、光忠は荒れ狂っているな。
光忠は、怒りに任せてこちらに牙を伸ばしていた。
激しい敵意に焼かれているかのようだった。
改めて理解した。震結とムクでは、御魂のレベルで違いがあった。
安定しているムクと、異常に荒ぶる震結。
静也は、怒りに任せて躍りかかる光忠に対して、左耳のピアスに手をかけた。
改めて、考えたことがなかった。何故、俺がこのピアスに気を取られたのか。
倒れて復活したあと、ずっと、静也はピアスについて考えていた。
ピアスを、宙に投げ放っていた。
あの恩人、勘解由小路降魔が身につけていたそれが、ただの伊達とは到底思えなかった。
銀製のピアス。それは、ペンタグラムを示していた。
古来から、五芒星が表す魔除け。それは、目を表していた。
駆けた光忠は、しかし、投げ放ったピアスに、反応していた。
妖魅の攻撃衝動を躱す目。魔除けが、光忠を完全に誑かしていた。
静也は、真っ直ぐ光忠に向かって、貫手を伸ばしていた。
何故、こうなったのか、光忠は理解出来まい。
完全に、目線をよそに向けた光忠の腹に、静也の爪が貫いていた。
兄弟の死闘は、当然のように決していた。
「――斬獲、完了」
意識を失った光忠が、地に伏していた。
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