事が終って

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事が終って

 その時、勘解由小路莉里は、安全な場所で、用意されたケーキを爆食していた。  地震が、治まったのよさ?まあいいのよさ。  莉里は、卓上に置いた鏡を見て、自分の美貌を確認していた。  うん。莉里は可愛い。姉ちゃんは勿論、ママよりも。  まあ、地龍の情報を道成や羅吽に流したのは莉里だったのだが。  莉里の情報通りに事態は進み、遂に地龍が目覚めたと思ったが、日本列島が沈む前に、さっさと地震は治まってしまった。  あー、何故か、パパは顔を見せなかったけど、もし、ホントに地龍が目覚めれば、パパがカッコよく事態を斬獲するのよさ。だって、莉里のパパだもんさ。  マジでパパカッコよすぎるのよさ。ママには渡さんのよさ。  ところで、ずっと何かを堪えているような、手下を見ていた。  この鬼頭、静也とのことがあってから、ずっとこうしていたのだった。 「ところで、あんた何腑抜けてんのよさ」  必死に何かを耐えるような顔で、鬼頭は言った。  何なのよさ。こいつの背後に、籠釣瓶(かごつるべ)次郎左衛門(じろうざえもん)が見えるのよさ。  籠釣瓶の次郎左衛門は、誰もが愛する花魁 、八ツ橋に懸想した挙げ句にフラれ、最後に妖刀籠釣瓶を引っ提げて、八ツ橋の前に現れる話だった。 「道に外れたヤクザ者なのは百も承知です。所詮ヤクザは赤い着物(囚人服)白い着物(死装束)。遠い約束の連絡船で、儂は貴女を待っておりました。遂に涙は枯れに枯れ、悲しい忘恩鳥となって、儂は北の空を舞っておりました」 「何言ってんのよさ。解らんのよさ。かいつまんで話すのよさ」 「あの、風間静也と何があったので?莉里様」 「はあ?!」  その時、お互いの間には、1人の男がいた。  まあ別に、ファーストキスなど何でもないが、あの時湧き上がったお腹の熱さは、別次元の重みがあった。  あの時、確かに高貴すぎる狐姫は、下賤な若きオス相手に、ハッキリと発情していたのだった。  幼い莉里は、完全に見誤っていた。若い童貞の、恐るべき生殖衝動というものを。  まだ、莉里がちっちゃいからスルーされたのだが、あの不可解なお腹の熱さを知るには、あと10年は待たねばならなかった。 「そりゃあお前!あんな野良犬みたいな男!まあでも、思った以上に静也カッコよかった。とかそんな訳ないのよさ!」 「莉里様――儂は信じてたのに。あんな若造と乳繰り合って」  要するに、誰もが愛するアイドルに異性問題が起きて、スキャンダルに沸くアイドルが目の前にいたらどうなるか。きっとこうなる。 「あんな若造のモノになるのなら。莉里様ああああああああああああ!!」 「ぎゃあああああああああ?!」  アイドルが、ドルオタに襲われていた。 「離せ!HA★NA★SE!!お前だけで逝け!お前だけで逝け!護田さああああああああああん!助けるのよさあああああ!護田ごらああああああああ!莉里の貞操の危機に傍観するのか?!うひいいいいいい!!」  莉里の幼児パンツが力ずくで脱がされようとした時、鬼頭の股間に、女の小さな足が見えた。  何かが、サッカーボールのように、鬼頭の股間ごと、その体を蹴り上げ天井に埋没させた。  た、助かったのよさ。莉里の貞操を奪うのはパパ以外にいないのよさ。  それにしても、鬼頭はタイプレッドの人化オーガ。ジジイであっても、鋼のような体をボールみたいに蹴り上げるなど、一体どんな化け物女が。  ――化け物女? 「う、うわあああああああああ?!何で現れたのよさあああああ?!ママああああああああ?!大体!そのお腹は何なのよさ?!この浮気託卵毒蛇め!」  知らない間に帰ってきた母親は、妊婦になっていた。 「グス。可哀想な莉里ちゃん 。パパの愛情に飢えてるのね。同時に大きくなって。ママは嬉しいですよ?」 「ていうかお前えええええええええ!パパと!莉里のパパとモルディヴで仲良くしてたんか?!こいつは許さんのよさあああああああああ!!!」  幼児は激おこしていた。 「お察しの通り、ママのお腹には弟ちゃんがいます。「それで真琴、実際いつ出来たんだ?」「それは勿論、去年の冬の東京でしゅ♡フォックスグランドホテルのペントハウスで妊娠したのですが、モルディヴで子作り旅行に行こうという降魔さんに従うように、モルディヴで子作りを繰り返していました」」  脅威の1人2役があった。 「それで妊娠?!このメス蛇めえええええええええええええ!羨ましいのよさ!莉里が代わりたかったのよさ!そのポジション寄こして去れ!特にそのぬいぐるみ!」  パパのぬいぐるみをギューッと抱いて、ママは言った。 「可愛い莉里ちゃん。ママでなく1人の女として応えましょう。嫌です。これはママの降魔さんでしゅ」 「な、何をおおおおおおおお?!」 「さて、そもそもの話をしましょう。地龍を強引に目覚めさせるという行為は、既に降魔さんによりその危険が提唱され、それに対する策は構築されていたのです。今回の件で、降魔さんが陰に徹した理由は1つ。莉里ちゃんです。パパが顔を出せば、パパ恋しさに、無理矢理日本を滅ぼそうとした貴女を、喜ばせるだけだと判断したのです」  ゲヒ。妙な音が喉から出ていた。  確かに、思いっきり日本を滅ぼそうとしていた。  羅吽が悪さをすれば、カッコいいパパが斬獲するだろうと考えたのだが、羅吽が逃走し、莉里の関与がバレた場合どうするか、全く考えていなかった。  そうなったらどうなるか。年少さん時代に食らった痛みは今も、魂に刻み込まれている。 「ご、ごめんなしゃああああああい!莉里はあああああ!こうなるなんて考えてなかったのよさあああああああ!」  泣きながら飛びついたが、ママは、 「ああ莉里ちゃん、ママも愛していますよ♡パパの次に」  イッラあ。涙が引っ込み、ついで、その体がひっくり返った。  ああ来た。これから、メッチャハードな駆け引きが始まるのだ。  ママの膝の上で腹這いにされたまま、ママが言った。 「では、16回」 「し、死ぬわあああああ!2回!」 「12回」 「だから死ぬって!3回!」 「11回」 「少しは譲歩しろおおおおおお!4回!」  10回。5回!けったいな駆け引きが続いた。 「じゃあ7回!でなければ殺せええええええええ!」 「解りました。では、降魔さんの名代で、私が」  園児スカートをまくり上げると、魔法少女ぷいきゃーの顔が見えた。  硬い、竹をぶっ叩く音が響いた。  ひ、ひいいいいいいいいいいいい!  叩き終わったあと、魔法少女ぷいきゃーパンツは、お漏らしでしとどに濡れていた。  違う。膝の上でお漏らしはこういうんじゃない。 「これは、女の子同士の秘密にしましょう。換えのパンツはあります」 「それ違う!宇宙刑事ギャブランパンツは!何でそのダッセえギャブラン?!っていうか宇宙刑事って今更!」 「宇宙刑事ギャブランは、ママの幼少期の憧れの、超レアアイテムです。オークションで58000円。完全未使用です。ママが履いてれば、降魔さんなら900万払うようでしゅよ?」  結局、軽い自慢話だった。 「う、うわああああああああああああああああああああああ!」  幼児は、母親に完全に敗北したのだった。
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