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人妻来訪 その2
春のうららかな陽光を浴びて、風間静也は相変わらず屋上で寝っ転がっていた。
警察庁祓魔課は、新たなヒーローを得るに至ったようだった。
そのもう1人である陰陽皇女田所紀子は、何も言わずに隣に腰かけた。
「今、何聴いてる?」
「ファーマーの、イン・ア・センチメンタル・ムードだ。俺は、遂に1人ぼっちになったらしいし」
ああ。父親と母親、同時に失ったのよね。
「でも、まだ弟がいるじゃない」
「ああそうだ。光忠だけは、絶対に取り戻す。羅吽だっけ?ああ狙撃したのは、交換研修生の猫さんだったそうだし。勘解由小路さんの弟子も来ているそうだ。挨拶しないとな?」
「いや、あんたサボってたんで知らないみたいだけど、うちのクラスに入ってきたわよ?金髪のイケメン気取りが」
「ああ、そうなのか。じゃあ、挨拶に行かないと」
「それはともかく、いいの?学校周辺マスコミが群れてるし。日本沈没未然に防いだって、凄い騒ぎになってるわよ?」
「俺はただ、光忠を斬獲しただけだし。結局、羅吽に連れて行かれたが。寧ろ、もっと紀子は騒がれるべきじゃないか?天の御柱を顕現させた、国内最強の陰陽師だし」
自覚ないのねこいつ。目立った方が勝ちなのよ。この世界。
そして、静也は跳ね上がった。
「い、いいいい諫早先生?!産休中では?!」
紀子も悲鳴を上げていた。
「つわりも今はありませんし。戦闘行為をしなければ、活動には問題ないそうです」
ぬいぐるみをギューッと抱いて、ハアハアした人妻は言った。
「愛しゅる旦那しゃまから、貴方達全員を等しく鍛え上げて欲しいと言われました。了承した以上、今月中に結果を出さねばなりません」
「今月って、今日で終わりですよ?明日から連休ですし」
私立校だからか、4月末日は何故か平日扱いだった。
「ならば、今日中に結果を出しましょう。先ほど、妙な外国人に襲われかけた記憶も新しいのですが」
ああ、屋上から見下ろすと、朝礼台の上に、磔刑にかけられた変態研修生の無惨な半死半生の姿が。
「くしくも、今体育教練の真っ最中です。アレを拾って、1位2位を独占してきてください。失敗したら、モノクルを外しますので」
屋上から、静也がダッシュで飛び降りていった。
「僕から俺になって、少しは成長したのに。貴女には、まるで意味がないんですね?」
「私にも、可愛い坊やが2人います。ああで、貴女はどうしましょうか?降魔さんは、「私は駄目な皇女です」って看板を首に下げて、街を練り歩くところから始めるのはどうだろうと」
それ、どんな大革命よ。
視線を下ろすと、静也は馬鹿の拘束解除に手間取っているようだった。
とりあえず、死ぬな。静也。
陰陽皇女は不条理を感じていた。
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