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拐われた風獣
結構な胃痛ですが、大丈夫ですか?紀子はそう言った。
「いい加減、あのおっさんに代わる人材を、求めた方がよくないですか」
「本当に理不尽で、遣る瀬ないことだがな?あれに代わる、あるいは匹敵する人材など、世界中、どこを探したっていまい」
そりゃあまあそうだが。
「何しろ、奴の知識は恐ろしい。絶対に敵に回せん。というか、あいつがぼそっと呟いたのをうっかり口にしただけで、我々は秘密警察が如き存在になりかけてしまった」
まあ、仕方ないし。それよりあの党首の枝野田、何か変な集団とコッソリ連絡取り合ってるっぽいのよね。
「まあ、お辛いのを承知で申し上げます。今日、おっさんの嫁が来ました学校に。何か、妊娠してましたよ?」
ちーんと、課長の口から魂が抜けていった気がした。
「あ、あああ。あいつ等は――まあいい。彼女も欲しがってたしな。あいつ等今までどこに――ああ、牡丹君が住んでいた、モルディヴのヴィラだろう」
「ええまあ。未成年者に、何て話する?ってレベルの猥談をズラズラと」
「君等は未成年だし、流石に考慮があったのだろう。私や牡丹君、水仙くん辺りだとそうでは済まん。1時間近い独演会が始まる。そうか。出来たのか。また」
あー、凄い気が減退して、気涸れのレベルに。
「というか、何故連絡せんのだあいつは。ああ、つい先日、アメリカから研修生が2人日本に来ている。さっきまではいたんだが。いないか。まあ、会ったら親切にしてやってくれ。石山さんの胃薬を飲みに行こう」
軽くふらついて、課長は施設を出て行った。
ホントに可哀相な人だった。祓魔課設立が決まった時、まだ私達は7,8歳で、小学校に上がったばかりの静也の面倒を見ていたのだ。
それから、部分的に課長の可哀相なエピソードを聞かされてきた。
あのおっさんに拾われたに等しい静也は、あの人とトキさま、牡丹水仙姉さんは正しい。とか言っていたが、まあ聞けば聞くほど、あのおっさんのいい加減っぷりに、忸怩たるものを感じていた。
隕石でも落ちればいいのに。紀子はそう結論づけた。
祓魔課のロビー近くには、何故か、軽食やスイーツが食べられる、公用のカフェがあって、そのカフェの前で、突如ムクが静也の体を抜け出し、カフェに消えていった。
「ああ、ムク、どこに」
「――って。いた。あのおっさんの娘が」
風獣ムクが、出鱈目な娘に誘拐されていた。
うっきゃああああああ!モフモフだお!ムク可愛いよムク!
何か、諫早祓魔官が幼児化したような声が響いていた。
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