拐われた風獣

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 うわあ。目の前で、テーブルの上で腹を見せてキュンキュン言ってるムクと、恐ろしいものを紀子は見た。  母親ソックリの美貌、何とも妖艶な幼稚園児。稲荷山幼稚園たんぽぽ組の厄災姫(やくさいひめ)勘解由小路莉里(かでのこうじリリ)の姿があった。 「ああもう可愛のよさムク。持って帰っていいのよさ?」  語尾がけったいな幼児は、祓魔課の新たな切り札を誘拐する気満々だったという。  この子とは、紀子達が中学生の頃、まだブルージャケットを支給される前に出会った。  けったいな、巨大化したカワウソを1人で鎮めてしまったのだった。  まあそのあと、母親にお尻叩かれてたのよね。 「お久しぶりです。莉里さま」  静也は、凄く腹を見せたそうだった。  それはこの子の特性によるものだった。  数多の妖魅(ようみ)を誑し込む奇っ怪な魅力に、半人半魔になっている静也は、もうグラグラに魅了されていた。  あー。莉里さま可愛い。頭では小賢しい幼児と解っていても、どうにも抗えないのだった。  それは、静也とムクの同化が進んでいることを示していた。 「莉里が年少組以来なのよさあんた等は。まあ今日は、ムクに会いに来たのと、あんた等の顔見に来たのよさ」 「でー。何の用?莉里ちゃん」 「莉里さまと呼べこの下賤なおっぱい女。まあいいのよさ。ももたろ-しに行くのよさ。悪い鬼さんがいっぱいいるのよさ」  ピキ。ってきた紀子は、 「正式な祓魔のご依頼でしたら、しかるべき筋からご依頼ください。お化けを見たら、祓魔課の子供用窓口まで」  とりあえず、標語で攻めてみたのだが、 「うるさい。この払底(ふってい)おっぱいめ」 「ふ?!ふ?!ふって?!」  改めて、紀子は衝撃を受けていた。 「今回の通報は完全秘匿なのよさ。もし、莉里ほどの人物が正式に依頼するとどうなるか。組織一致体制で大規模な作戦になるのよさ。でも実際、小規模な人員で動いた方がいいのよさ。大規模霊災が起こる可能性がある。改めて依頼するのよさ。国内において、かなり攻勢な人化オーガの一派によるテロの危険を感知し、祓魔官への祓魔を依頼するのよさ」  この、こまっしゃくれた幼児は何だ。これで年長組?紀子は納得いかなかった。 「じゃあ行くのよさ。働け。莉里の為に。莉里をして莉里の鞭影を見ていくが如く」  大嫌いだ。このガキ。何で臨済録? 「えー?このガ――保護者もいないのに」 「今、ガキって言おうとしたか。まあ安心しろなのよさ。護田さんがいるのよさ。護田さん、車出すのよさ」  莉里は立ち上がった。黄色い園児のスカートが、ふわっと風を孕み、えもいわれぬ芳香を静也は感じていた。  妖魅は匂いに敏感だ。その辺は、父親であるあのおっさんソックリだった。  あのおっさんの(しもべ)悪魔が、ガキの子守をしてるって。  親は何してんのよ。このガキ、何か企んでるわね。  ふふん。どいつもこいつもチョロいのよさ。大規模霊災が起きれば、パパが動き出すのよさ。  いーやー!もうパパカッコよしゅぎー♡ステキなパパが問答無用で霊災を斬穫し、勝利に浸るパパのお膝の上で莉里は、お漏らししちゃうのよさ♡  幼女は、実に危険で、それでいてけったいな願望を抱いていた。
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