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莉里の版図
地下駐車場に、金色で、冠がトップに付いた、激痛が走りそうなベンツがあった。
「莉里の車に、何か文句あるのか」
ありませんが、もう近付きたくはありません。
激痛ベンツが、四谷に向かって動き出していた。
ベンツの中は、カラオケルームと化していて、幼児のけったいな美声が響いていた。
「ぷいっきゃあぷいっきゃあ!ぷーいきゃーあ。ぷーいきゃーあ。ぷーいきゃーあ!ぷーいきゃーあ!!」
後半2フレーズは、びっくりするほど野太い声だった。
教育関係者は大変だ。紀子はぼんやり思った。
4月に入って、もうすぐゴールデンウィークに入ろうというのに、こんな厄介なガキを教育せにゃならんなんて。
紀子の知らない世界では、どっかで誰かがボケえええええええ!って言ってたような気もするのだが、どうせ関係ないのよね。私には。
「あー歌った。莉里ぷいきゃーだものよさ。払底、何か歌え」
魔法少女ぷいきゃージュエリーを自称する幼児はそう言った。
魔法少女ぷいきゃーは、莉里が生まれた年から放送が開始された、アニメ番組だった。
「遠慮します。それより、四谷に何が?」
「あん?四谷には、とある集団が、昔から住み着いてるのよさ。暴対法を上手にかいくぐってるけど、つまるところヤクザなのよさ。莉里の手下なのよさ」
このガキ、年長さんの分際で、もう黒い人脈と繋がってて。
親は何してんのよ。あの、どうせ嫁とやりまくってるマヒマヒの杖突きおっさんは。
「まあそんなこんなで、これこの通り、莉里の版図は順調にマルチまがい風に広がってるんだわさ」
この幼児の胡散臭さはどうだ。普通の幼児はヤクザに近付きもしないし、版図を広げたりもしない。
「でも、所詮はヤクザなのよさ。暴力を越えた、霊力による破壊の前では儚いのよさ。要するに、サイド7のザクみたいなのよさ。莉里が動けば忽ち」
「それより、そのヤクザ組織は?察するに、人化オーガの集団なんですよね?」
紀子に言われて、面白くなさそうに莉里は応えた。
「まあね。その組織は、明治大正昭和と、人化オーガや妖魅の駆け込み寺的な役割をしていた組織なのよさ。連中の戦闘力は、カテゴリーB1ってとこなのよさ。静也が単体でA。払底はBって、その程度が吹けば飛ぶような弱小組織ではあったのよさ。でも、実際に人化オーガは人間社会じゃ最強の脅威と言えるのよさ。握撃使うヤクザで占められた組織に、普通の警察じゃ手も足も出せなかったのよさ。そんな組織を弱小と言える人材集めた祓魔課を作ったパパカッコよすぎるのよさ。ママには渡さんのよさ」
この幼児は妙な欲求を、実の父親に対してい抱いていた。
「そんな組織でも莉里は、表向きはクリーンを装って懐に隠していたんだけど、最近妙な連中に、次々と組員殺されてるのよさ。その強さは単体でS以上。まあ護田さんが単体でSSSなんで、まあいいかと思ったんだけど、頼られた以上何とかしてやる必要があるのよさ。東京閻羅会の組長は、莉里のパンツに欲情する駄目なおっさんなのよさ。だから急ぐのよさ護田さん!ぷいきゃージュエリーの登場なのよさ!パパの赤ちゃん生むのは莉里だけなのよさ!ママは許さん!あの不倶戴天の敵めええええええええええ!去んでいるー嫁のーはーらのおーくでー、グネグーネウゾウゾーと動いてーる虫達ー!」
いつも何度でも去んでいる嫁の歌。作詞作曲は、稲荷山トキだった。
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