序章

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序章

  警察庁祓魔課の払暁 姫と風獣と日本沈没編新装版  思い起こせば、毎日が地獄だった。  3歳の頃から、気に食わなければ殴られ、不愉快であれば蹴られて、1日として、生傷が絶えない生活を強いられていた。  小学校に上がって、学校のアンケートに、父親に毎日殴られていますと提出した。  当然、父親には行政の罰が下ると思っていた。  動かなくまで殴られて、アンケートに父親の暴力のことを告白したと白状させられた。  彼は、事実を告げたのに、それが、直接の恫喝によって、嘘と認定されるとは思っていなかった。  怪我がなく、家に帰れるのが異常だった。  このあと、死ぬほど殴られるのだと認識していた。  家に引きずり込まれ、扉を閉められた。  ああ、このあと、僕は死ぬのだと思っていた。  彼にも、心置けない友というものがあった。  ムクと名付けた、小さい獣が唯一の友達だった。  思い切り殴り飛ばされ、襖を突き破った時、ムクの小さい咆哮が聞こえていた。  父親が、悲鳴を上げて、ムクのギャンという断末魔の声が聞こえた。  顔を上げ、足を引きずり前に出ると、ムクが、内蔵を吐き出した骸があった。    ああ、このまま僕は死ぬんだ。そう思い、絶望していると、集合住宅の、分厚い鉄の扉がバタリと倒れた。  入ってきたのは、奇妙な男だった。  甚平を着た杖突きの男で、左半身に、過剰とも言える装飾品で飾っていた。  特に、彼は、左耳のピアスに目を奪われていた。 「ふうん。ピアスが気になるのか。小1のガキなのにな?」  男は、そんなことを言った。 「な、何だお前は?!人の家庭のことに口を出すな!」 「あああ。そういうことをする野郎は、大体そんな風に言うんだな?子供を殴ったな?俺も、子供の父親になって解った。服部さんもよくやった」  男は、よく解らないことを言った。 「三田村さん。このカスをやれ」  黒い何かが、父親の胸ぐらを掴み、その場に締め上げた。 「苦しいか?お前がしてきたことだろう?いよいよ思う。俺の嫁の腹にも、同じような子供がいる。まあ、まだちゃんと判明してないんだがな?昔から、そうやって、自分より弱い者を、こうやっていたぶってきたんだろう?お前が苦しい思いをするのは、自業自得にして、お前がカスみたいな人間だからだ」  父親が、黒いヘドのようなものを吐き出していた。 「な?チャチな邪霊だ。息子に対する攻撃衝動を、操作していたのがそれだ。だが、社会的にお前は、児童を虐待するクズ野郎だ。クズにはふさわしい罰を受けろ」  父親を投げ捨て、男は、少年に近寄った。 「嫁が気にしていた。まずもって、お前は自身に対する脅威を、正直に語る勇気と知恵があったが、問題は、生まれて3ヶ月の弟の方にあった。まず、その脅威があった。ついでで済まんが、まず弟の脅威があって、お前は二の次だった。三田村さん」  黒い何かが、少年を抱き上げた。 「これが気になるのか?それこそが、お前にある第二の脅威だ。あとはトキに任せるか」  集合住宅を出た男は、妙なマスクを被ってマスコミのカメラに晒されていた。 「どーもー。マヒマヒさんが、子供の命を救ったヨ?オヤジは邪霊の支配下にあったが、それも浄霊した。あとは行政に任せるとスルヨ?マヒマヒさんをよろしくね~?」  よく解らないことを言っていた側で、少年は、投げ寄越された、ピアスのことを気にしていた。  ムクの死骸は、あまり気にならなくなっていた。
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