うさぎさんと夏のともだち 続編 冬の再会

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冬将軍がやってきた。 例年、さほど寒くはならないこの村でも 年を越した当たりには雪が舞うこともめずらしくない。 「さ、寒いですね・・・。」 こだぬきなどは縮こまりすぎてひとまわり小さくなっている。 「あたしは平気ですよ。」 うさぎは鼻先をほんのり赤くしながらも活発に動いている。 おばあさんが餅を作ってくれたのでみんなに配ってお手伝いをしているところだった。 「おいしそうだねえ~。じゃあ、おばあさんにこれ、持って行って。」 きつねのねえさんは奥から芋のはいった袋を持ってきた。 「ありがとうございます♪」 うさぎの荷物はちっとも減らずにむしろ増えていくようだ。 「これもおばあさんのお人柄ですね。」 うさぎは自分がほめられたように嬉しくなった。 村を半分くらい回って帰り道に差し掛かったとき ちりん、と小さな音がした。 「おや?」 小さな湧き水のあるその場所は、夏の暑い盛りにはよい休憩場所だったが、 いまはつららができそうな冬のさなかである。 「どこか遠くからいらしたのですか?」 うさぎが声をかけたのは小さな猫だった。 ちりん、とかわいらしい小さな鈴がついている。 「主人を探しています。」 「ご主人さまとはぐれてしまわれたのですか?」 「いえ、そうではなくて・・・。」 猫には「小雪」という名前があった。 文字通り真っ白な、まだ子猫といってもいいほど小さな猫である。 小雪の主人は冬になると小物を売りにいく仕事をしていたのだが、 しばらく前にでかけたきり戻ってこない。 「今までも一晩くらいは留守にすることがあったのです。」 しかし数日たっても戻ってこないので、小雪はいてもたってもいられなくなって探しに来たのだ。 「なにか探す当てがあるのですか?」 「いいえ・・・。」 小雪はうつむいて首を振った。 「でも。」 ちりん。 「この鈴があります。」 小雪は首に結んだ小さな鈴をみせた。 「主人が持っているものと同じです。」 鈴のついている首輪は主人の手作りなのだろう。 まだ小さい小雪の負担にならないようやんわりと結べるように工夫してあった。 「わかりました。みんなにも聞いてみましょう。」 「よろしくお願いします。」 うさぎは小雪といっしょに村をまわって訪ね歩いた。 いつしか冬の重い空からふわふわと羽根のような綿雪が落ちてきた。 情報はなにもみつからなかったが、温かいのみものを振舞ってくれたり、 しばしの暖をとれるよう家に招き入れてくれたりして協力してくれた。 「見つからないようだったら明日にでもとなりの村へ使いでもだしてみよう。」 兄さんりすは提案してくれた。 「ありがとうございます!」 泣きそうな顔だった小雪の目が少しだけ輝いた。 冬の日暮れは足早に暗く冷たくなっていく。 「きょうはおばあさんのところへ泊めてもらいましょう。」 うさぎは小雪の手をひいて帰路へ向かった。 「だいじょうぶですよ。また明日は別のところをさがしましょう。」 「はい・・・。」 こくりとうなずいたときに、ちりん、と鈴が鳴った。 「あ・・・。」 「どうしましたか?」 「いまの音。」 「小雪さんの鈴の音ですね。」 「いえ、違います。」 「え?」 「あれは主人が持っている鈴の音です。」 どういうことだろう。 うさぎは思わず立ち止まった。 「主人の鈴の音が聞こえるのですが、主人とは別の気配しかしません。」 「近くにご主人の鈴があるということですか?」 「おそらくは。でもそれを持っているのは主人ではありません。」 ちりん。 今度はうさぎにもはっきりわかった。 もうおばあさんの家のすぐ近くまできている。 道なりに並べた飛び石の通路にだれかが立っていた。 女の子のようだ。 ちりん。 ちりん。 小雪の鈴に応えるように向こうから音がした。 鈴を持ったその女の子はゆっくりと振り返った。 夜の冷たいくらがりに優しいあかりがともったように見える。 金色のひとみが懐かしいその子は、小さくお辞儀をしてにっこりとほほ笑んだ。 うさぎはおもわず駆け寄って、その小さい手で木の葉の手をしっかりと握った。 間違いない。 少し大きくなったのだろうか。 あの夏の日に、眠りながらもうさぎの手を離そうとしなかった木の葉だ。 「木の葉・・・。」 「また会えたね。うさぎさん。」 感動の出会いもそこそこに3人はおばあさんの家へ向かった。 小雪はおばあさんに歓迎され、冷えた体もようやく温かくなって安心したようだ。 おばあさんは木の葉に言った。 「お手伝いができるようになったんだね。」 「うん」 お手伝い・・・なんだろう。 「明日、ご主人のところへご案内します。」 「主人は無事でしょうか。」 「大丈夫。山を越えるときにちょっと足をいためたようですが、少し休養したら治りますよ。」 「ああ、よかった・・・。」 小雪の目から大粒の涙がこぼれた。 どれだけ心細かっただろうか。 涙はあとからあとからあふれて止まらなかった。 木の葉は小雪の背中をやさしくなでてやった。 うさぎはおばあさんの膝で泣き崩れてそのまま眠ってしまった木の葉を思い出していた。 そうだ・・・・・・。 思い出した・・・。 あのとき迎えに来た男の人は神様だ。 「木の葉は神様のところにいるのですね?」 おばあさんはにっこり笑っている。 「おばあさんのおくすりをいただいた神様ですね。」 おばあさんも木の葉もなにも言わなかった。 翌日、うさぎと木の葉は村のみんなのところを回ってきた。 みんなは木の葉に再会できて驚いたり小雪のことを喜んだり。 小さな村のあちこちがにぎやかに染まっていった。 雪の積もった帰り道、うさぎと木の葉は手をつないで歩いた。 「なくしたものを見つけることができると、うれしい気持ちでいっぱいになるの。」 小雪の主人は小雪にもう会えないかもしれないと思ったらしい。 「すぐに元気になるでしょうか。」 「だいじょうぶ。小雪にあったらたちまちよくなるわ。」 木の葉は金色の目をいっぱいに輝かせて言った。 「わたしたちはなくしてはいないけれど、また会えたからうれしいがいっぱい。」 うさぎはつないだ手をキュッと握りしめた。 「いつでも会いに来て。」 「うん。またみんなにも会いたい。」 夜になると空は晴れて星がまたたいていた。 ちりん。 ちりん。 木の葉と小雪は雪あかりに照らされた道をずっとのぼっていく。 ちりん。 木の葉は一度だけ振り返って手を振った。 ちりん。 ご主人によろしくね。小雪。 またあおうね。木の葉。 冬にまた会えたなつかしいともだち。
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