19. 東方重工 総裁室

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「はいこれ、じいちゃんからの荷物」  京香は受け取ってすぐにそれの中を覗いた。 「ちょっと! フルーツサンドじゃない! 食べるわ今すぐ! そういえば朝もコーヒーしか飲んでなかったわね!」  ビルのワンフロアに広大な総裁室と専属秘書の部屋がある。 「久しぶりに来たな。いつ来ても無意味に広大だな……」  ガラス張りの総裁室だ。ブラボーⅠの真ん中に一際高く聳え立つビルの最上階で、これを越える高さのある構造物はセントラルタワーくらいだ。  城の主人になった気分でメインアイランドを眺めることができるこのビルは全て防弾ガラスだとは聞いているが、防犯的に問題ないのだろうか。 零は思った。自分だったら絶対にごめんである。 「どうぞ、コーヒーです」 「あら、イェンス、ありがとう」  その男はこちらに歩み寄って一つ礼をした。 「イェンス・シュミットと申します。総裁の専属秘書の一人です」  流暢な日本語。歳は零と変わらないくらいだろう。名前からドイツ語圏の出身であることがわかった。 「零だ。よろしく」 「すみません、もう少々お待ちいただくことになるかと……」  彼はそう曖昧に笑う。京香をちらりと確認すれば早速「いただきます〜! きゃー父さんありがとう!」と無邪気に舌鼓を打っている。 「まああの人はフリーダムだから……うん」  これは長くなるな、と零は覚悟を決めた。 「今回お越しいただいたのは、新開発の人工声帯の件です」 「ちょっとイェンス! なんでバラしちゃうのよ!」  すかさず京香の声が飛んだ。 「零さまもいつまでも理由も聞かされずここにいるのは苦痛かと」 「わかってるな! そうだよ、そういうことなら先に理由を言えよ」  このロボットボイスが治るのか? 今時AIだってもっと自然に話せるのだからもっとなんとかなるだろうと期待していたのだ。 「後三十分したら治験したセミ・サイボーグの男性が来るわ。ちょっとここにでも降りて待ちなさい」  零は素直にデスクの上に降り立った。
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