3. 検疫 ミラと朝倉京香

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「母さん、世話になってるとか言ってなんのつもりだ?」  職員を壁際に追い詰めていたレイのドローンが困ったように頭の上をうろうろ飛んでいる。 「キョウカさん、よろしくお願いします」 「こちらこそ。早く会ってみたかったの。疲れてるでしょ? うちにおいでなさい、部屋は余ってるから! あ、父さんいいわよね?」 「もちろん」  拍子抜けした。ミラは呆気に取られて皆を見つめた。 「ミラ! 緊急脱出(ベイルアウト)したって聞いたぞ。大丈夫か?」  ジェフが間に入ってきた。ミラもキョウカも彼を見下ろした。  二人の間に入るジェフは平均身長があるはずなのに、なんだかとても小さく見えて不思議だった。  言われて首の痛みを思い出したミラは戸惑いがちに口を開いた。 「ちょっと首とか背中が痛くて……後からじわじわきたみたいです」 「整形外科に診せた方がいいな……」  そう言って端末で電話をかけ始めたのは、キョウカの後ろにいた長身のアジア系男性だ。一発で繋がったことから、おそらく無線か衛星電話だろう。   「うちのじいちゃん。龍って名前」  電話をかけながら、リュウは目を細めて頷いた。ミラは小さく頭を下げた。 「とりあえず座って。病院が決まったらうちの車で送るわ。ジェフ君、こういう時って冷やした方がいいの?」  ミラはキョウカに促されて戸惑いながら元のソファに腰を下ろす。 「そうですね……僕も専門ではありませんが、外傷性頚部症候群の場合、一般的に急性期は患部を冷却することが推奨されますね」 「ジェフ、わかりやすく言って!」  そう声を上げたのはカナリアの白いドローンだ。 「事故ったばっかりのむちうちなら、とりあえずアイシング!」 「了解! おい、そこのお前、氷水ビニールに入れて持ってこい! タオルも! いいか三分以内に戻ってこい! もし遅れたら……わかってるな?」 「はいっ! 今すぐ!」  レイが職員にそう飛ばして男はドアから逃げるように消えていった。   彼が下士官相手にすら強い口調を使っているところを見たことがなかったミラは、その様子に少々戸惑った。  後から「サイボーグに対する侮辱」とホークアイが言ったことの次第を聞いたミラは激怒し、零の態度の全てを理解することとなった。  だが、この時は誰も気づいていなかった。深く考えようとすらしていなかった。  なぜミラだけが隔離されたのか。体温も、人獣共通感染症も実は全く関係がなかったのだ。  彼女がが重要だったのである。 
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